岡山県矢掛町の矢掛宿は、旧山陽道の十八番目にあたる宿場町で、大名が泊まった本陣と、家臣が泊まった脇本陣の両方が国の重要文化財に指定された全国唯一の場所です。小田川に沿って白壁と格子戸の町家が約八百メートル続き、参勤交代の時代の地割がほぼそのまま残っています。令和三年三月に道の駅「山陽道やかげ宿」が開業し、電動アシスト自転車のレンタルサービスも整ってからは、車ではなく自転車でゆっくり流すポタリングの目的地としても知られるようになりました。
この記事では、旧山陽道沿いに広がる岡山県矢掛宿を、レンタサイクルを軸にした宿場町散策としてどう楽しむかを、実用情報中心にまとめます。本陣・脇本陣の見学料金や開館時間、道の駅とe-bikeの使い方、井原鉄道でのアクセス、そして吉備路方面まで足を伸ばす一日モデルプランまで、旅程を組むときに知っておきたい内容を順に整理しました。二〇二六年七月時点の情報をもとに、最新の宿泊施設や十一月の宿場まつりの日程も含めて確認していきます。

矢掛宿は旧山陽道十八番目の宿場町で本陣と脇本陣が国重要文化財に指定されている
矢掛宿は、江戸時代に整備された旧山陽道(西国街道)の宿場町のうち、江戸側から数えて十八番目にあたります。山陽道は江戸と九州方面を結ぶ幹線道路で、五街道に準じる重要な輸送路と位置づけられていました。寛永十二年(一六三五年)に参勤交代の制度が本格実施されるのに合わせて矢掛は宿場に定められ、本陣、脇本陣、問屋場といった宿場運営の施設が整えられていきます。
矢掛宿の最大の特徴は、大名が宿泊した「本陣」と、家老や側近クラスが宿泊した「脇本陣」が、両方とも当時の姿のまま現存している点にあります。両者がそろって国の重要文化財に指定されているのは全国で矢掛町だけとされ、宿場町の格式を体感できる希少な場所として知られています。元禄期ごろの矢掛宿は山陽道の中でも屈指の規模を誇り、五街道の宿場町にも劣らない輸送機能を備えていたと伝わります。
令和二年(二〇二〇年)には、こうした町並みが評価され、矢掛町矢掛宿一帯が国の重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)に選定されました。伝建地区への指定を受けたことで、古い町家の保存や修景が進み、伝統的な町並みを生かした新しいカフェや宿泊施設が続々とオープンしています。江戸時代の骨格を残しながら、令和の暮らしと観光がゆるやかに重なり合っているのが、いまの矢掛宿の空気感です。
旧矢掛本陣石井家住宅は敷地約千坪で式台付き玄関と上段の間が残る
矢掛宿の象徴といえるのが、旧矢掛本陣石井家住宅です。石井家は元和六年(一六二〇年)に現在地へ移り住み、寛永十二年の参勤交代制度の開始に合わせて本陣職を命じられた家柄で、以来代々にわたって本陣を務めてきました。参勤交代で往来する大名や公家、幕府役人などの宿泊・休憩の場として使われた建物が、そのままの姿で現存しています。
現存する建物には、式台付きの玄関や上段の間など、大名を迎え入れるための格式高い意匠が随所に残されています。敷地面積はおよそ千坪におよび、石井家は本陣職を務めながら酒造業も営んでいたと伝わることから、大名を迎える本陣の格式と、商家としての生活空間が同居する独特の間取りが今に残されています。
見学料金は、個人の場合、大人(高校生以上)が五百円、小人(小中学生)が三百円です。二十名以上の団体の場合は大人四百円、小人二百円になります。開館時間は三月から十月が九時から十七時まで、十一月から二月は九時から十六時までで、定休日は月曜日(祝日の場合は翌日)と年末年始です。冬季は閉館時間が早まるので、午後遅めに訪問する予定の方は開館時間の確認が欠かせません。
矢掛宿には、宿場町としての格を押し上げた「とと道」という逸話が残ります。開設当初はさほど繁盛しなかった矢掛宿の人々が、笠岡の漁港で水揚げされたばかりの魚を、およそ二十五キロの道のりをリレー形式で運ぶ仕組みを作り、宿場でその魚を振る舞うようにしたところ、多くの大名が矢掛宿の本陣を選んで宿泊するようになったといわれています。瀬戸内の鮮魚というささやかなおもてなしが、宿場としての矢掛の地位を押し上げたエピソードです。
もう一点、矢掛宿を語るうえで欠かせないのが、明治以降も経済的な活力を失わなかったことです。明治期に山陽本線が開通して旧山陽道の交通量そのものは減りましたが、矢掛では大正十年に井原鉄道の前身にあたる駅が西側に開業し、備中南西部の中心的な商業地として発展を続けました。昭和四十年代に小田川沿いへバイパス道路が通された以外は大きな改変を受けず、江戸時代後期の地割がほぼそのままの形で残されたことが、四百年近く続く町並みが保たれてきた最大の理由とされています。
旧矢掛脇本陣髙草家住宅は九棟が重要文化財で土日十時から十五時に公開される
本陣とあわせて訪れたいのが、旧矢掛脇本陣髙草家住宅です。髙草家は矢掛宿の両替商で庄屋役も務めた家柄で、本陣と並んで国の重要文化財に指定されています。脇本陣は本陣に次ぐ格式を持つ宿泊施設で、大名の家老や側近クラスの家臣が使ったとされます。
髙草家のルーツは、山陰地方の守護・戦国大名として知られる山名氏にさかのぼるとされ、江戸時代中期の宝暦八年(一七五八年)に現在地へ居を構えたと伝わります。「東平田家」の屋号で矢掛宿の両替商として財を成し、江戸後期にかけては庭瀬藩の会計方・札元や、地元小田郡の大庄屋も務めました。敷地は約六百坪におよび、主屋のほか蔵座敷、内倉、大倉、中倉、門倉など合わせて九棟もの建物が国の重要文化財に指定されています。白壁と張瓦のコントラストが美しく、備中南部の建築様式を伝える貴重な遺構です。宿場随一の金融業者であり庄屋役でもあった髙草家が脇本陣に選ばれたことは、当時の矢掛宿における同家の格式と経済力を物語っています。
見学料金は高校生以上が三百円、小中学生が百五十円です。ただし公開は土曜・日曜の十時から十五時までに限られているため、平日にポタリングを計画する場合は、脇本陣の見学は難しいと考えておく必要があります。本陣と脇本陣が徒歩数分の距離に共存しているのは全国的にも珍しく、両方を続けて見学すると、宿場町の階層構造がひと目でわかります。
旧山陽道沿いの町並みは八百メートルにわたりうなぎの寝床の町家が並ぶ
矢掛宿の町並みは、大阪と下関を結ぶ旧山陽道五十一次のうち十八番目の宿場として栄えた歴史を持ち、小田川に沿うように約八百メートル続いています。軒を連ねる町家の多くは、間口が狭く奥行きが深い「うなぎの寝床」と呼ばれる伝統的な構造を持ち、通りを歩くだけでも江戸期から続く商家の暮らしぶりが伝わってきます。
本陣通りと呼ばれるメインストリート沿いには、本陣・脇本陣といった歴史的建造物のほかにも、個性のある店舗が点在しています。創業百年以上の歴史を持つ石井醤油店では、昔ながらの製法で仕込まれた醤油や麹製品を扱っています。土蔵を改装した私設美術館「古意庵」は、地域にゆかりのある美術品や骨董品をゆっくり鑑賞できる小さな展示空間です。
新しい流れとしては、矢掛産の御影石を使った石臼で豆を挽く「石挽チョコレートショップ issai」のように、伝統素材と現代的な発想を組み合わせた店舗も生まれています。古い町並みの中に、江戸期の商家、大正から昭和の老舗、令和の新規出店が混ざり合っているのが、いまの矢掛宿の面白いところです。ポタリングで町並みを流しながら気になる一軒に立ち寄れば、車の観光では拾いきれない小さな発見が積み重なっていきます。
町なみの西寄りにある井原鉄道・矢掛駅は、平成十一年(一九九九年)一月十一日の井原線開業と同時に設置されました。駅舎は宿場町・矢掛をイメージした和風建築でデザインされていて、駅を降りた瞬間から宿場町の空気に切り替わる工夫がされています。
道の駅「山陽道やかげ宿」は令和三年三月に水戸岡鋭治氏監修で開業した
矢掛宿散策の起点として便利なのが、令和三年(二〇二一年)三月に開業した道の駅「山陽道やかげ宿」です。この道の駅は、施設内に物産販売や飲食店舗を置かない新しいスタイルが特徴で、隣接する矢掛宿の商店街そのものを物販・飲食エリアとして活用する設計になっています。道の駅を拠点にしながら、実際の買い物や食事は宿場町の中に点在する店舗で楽しむ、まち歩きと一体化した仕組みです。
駅舎のデザインは、岡山県出身の工業デザイナー・水戸岡鋭治氏が全面監修を手がけました。水戸岡氏はJR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」や、新幹線・特急列車のデザインで知られる人物で、道の駅内には観光案内コーナーのほか、キッズルームや展望デッキも整備されています。旅の情報収集と休憩の両方に使えるので、宿場町へ入る前に立ち寄っておくと便利です。
道の駅には、アウトドアブランド「モンベル」のフレンドショップも入っていて、自転車旅行者や登山客が装備を補うこともできます。モンベルが独自開発した軽量自転車シリーズ「シャイデック」を用いた電動アシスト自転車のレンタルサービス「e-Bikeでやかげおでかけ」も提供されており、利用日と台数を選んで予約する仕組みです。支払い方法はクレジットカードによる事前決済のほか、当日現金やPayPayにも対応しているとされます。週末や観光シーズンは予約が集中しやすいので、旅程が決まった段階で早めに押さえておくと確実です。
駐車場は大型車十台、普通車二十七台、障害者用一台、EV用一台の合わせて三十九台分が整備されています。マイカーで岡山観光に組み込む場合、この道の駅に車を置いて自転車で宿場町を巡る流れが、いちばん動きやすい形になります。
やかげ町家交流館は築八十年超の古民家で観光案内と特産品販売を担う
道の駅とあわせて、まち歩きの前に立ち寄っておきたいのが、やかげ町家交流館です。築八十年を超える古民家の趣をそのまま生かした観光交流施設で、観光情報コーナーでは矢掛町内のイベント情報の提供や、地域の土産物の販売が行われています。旧山陽道沿いの店舗情報を紙のマップで押さえておきたい人には、まず訪ねておきたい拠点です。
館内の和室や二階の貸室は会議や集会にも使えます。最大百人を収容できる多目的ホール「谷山サロン」では、演奏会や講演会、朗読会、落語会など多彩な催しが開かれています。旅の日程が催し物と重なれば、宿場町の暮らしに触れられる時間になります。
軽い休憩には、矢掛町産の野菜を使ったランチやドリンクを提供する「やかげ茶屋」が便利です。開館時間は十時から十八時までで、休館日は年中無休となっています。ポタリングの出発前に立ち寄って、地図や最新のイベント情報を入手しておくと、当日の宿場町散策がぐっとスムーズになります。
矢掛駅のレンタサイクルは六台で午前九時から午後四時まで利用できる
道の駅のe-bikeに加えて、井原鉄道・矢掛駅でも従来型のレンタサイクルが利用できます。矢掛駅には六台の貸出用自転車が用意されていて、利用時間は午前九時から十二時、午後は十三時から十六時までです。問い合わせ先は矢掛町まちづくり財政課となっています。台数が限られるうえに昼休憩の時間帯には貸出を止めるため、鉄道でアクセスして駅で自転車を借りたい場合は、午前中の早い時間に駅に着く旅程が動きやすいです。
道の駅のe-bikeと、駅の一般車両のレンタサイクル、どちらを選ぶかは旅の目的で分けるのがよさそうです。宿場町の中心部だけを気軽に一時間ほど流したい人には、矢掛駅のレンタサイクルが手軽です。総社方面の吉備路まで足を延ばしたい、坂道が続く郊外まで足を伸ばしたいという人には、電動アシストのe-bikeが安心です。いずれの場合も、事前予約や利用時間帯に制限があるため、旅程を組むときに公式情報を確認しておく手間は惜しまない方がよいでしょう。
矢掛宿へのアクセスはJR岡山駅から井原鉄道で約五十分
矢掛宿への公共交通機関でのアクセスは、JR岡山駅からJR山陽本線・伯備線を経由し、清音駅で井原鉄道に乗り換えて矢掛駅に向かうルートが基本です。所要時間はおよそ五十分程度とされ、日帰りでも十分に楽しめる距離感です。矢掛駅から矢掛宿の中心部までは徒歩約十分で、駅を出てすぐに旧山陽道沿いの町並みへ入っていけます。
車で訪れる場合は、山陽自動車道の鴨方インターチェンジからおよそ十五分、笠岡インターチェンジからおよそ二十分ほどで道の駅「山陽道やかげ宿」に着きます。駐車場から井原鉄道矢掛駅までは徒歩約十分の距離なので、道の駅に車を置いて自転車と徒歩を組み合わせるプランが組みやすいです。マイカー派とポタリング派、どちらにとっても使い勝手のよい拠点になっています。
旧山陽道のポタリングは矢掛宿から吉備路自転車道まで足を伸ばせる
矢掛宿の魅力をじっくり味わうなら、車ではなく自転車でゆっくり流す「ポタリング」がおすすめです。ポタリングは、目的地に向かって急ぐサイクリングとは違って、景色や町並みを楽しみながらのんびり走るスタイルの旅を指します。旧山陽道沿いは道幅が狭く車の往来にも気を配りたい区間があるため、電動アシスト自転車でゆっくり流すくらいのペースが、宿場町散策には合っています。
宿場町の中心部そのものは、本陣から脇本陣、旧問屋場跡、白壁の町家、老舗の造り酒屋、古民家を改装したカフェや雑貨店までが一キロ程度の範囲にまとまっています。徒歩でも十分に回れる規模ですが、自転車を使えば、宿場町の外側に広がる小田川沿いの田園風景や、少し離れた山手のカフェ、周辺の神社仏閣までも無理なく足を延ばせます。
具体的なモデルコースとしては、まず道の駅「山陽道やかげ宿」でe-bikeを借り、旧山陽道沿いのメインストリートを東西にゆっくり走破します。本陣・脇本陣を見学したあと、町家を改装したカフェで一休みし、小田川方面へ抜けて田園地帯の風を感じながらペダルを漕ぐのが定番の流れです。体力に余裕があれば、隣接する総社市方面まで足を延ばし、吉備路自転車道ルートに合流するのもよい選択肢になります。このルートは備中国分寺や造山古墳、吉備津神社といった吉備路の歴史スポットをなだらかな道でつなぐコースで、距離はおよそ二十五キロ、獲得標高はわずか百十メートル程度と、初心者でも走りやすい平坦基調のコースです。矢掛宿からのポタリングと組み合わせれば、宿場町の歴史と吉備路の古代史の両方を一日で味わえます。
吉備路エリアには、総社駅から徒歩一分ほどの荒木レンタサイクルをはじめ、備中一宮駅そばの上東レンタサイクル、備中国分寺近くの高谷レンタサイクルといった貸出拠点があり、借りた店舗と異なる店舗へ返却できる乗り捨てサービスも用意されています。営業時間は九時から十七時まで(受付は十五時三十分まで)で、料金は一般自転車が千五百円、スポーツバイクが二千二百円、電動アシスト自転車が二千八百円、二人乗りのタンデム自転車が六千五百円ほどとされ、乗り捨てには五百円ほどの追加料金がかかります。矢掛宿でe-bikeを返却したあと、公共交通機関で総社方面へ移動し、あらためて吉備路のレンタサイクルを利用する二段構えのプランも組めます。
矢掛宿のカフェ巡りは侍の隠れ家Cafe Noriや月と灯りが選択肢になる
宿場町散策の楽しみのひとつが、町家を改装した個性のあるカフェ巡りです。矢掛町内には、昭和レトロな空気を残す古民家カフェが点在しています。「侍の隠れ家 Cafe Nori」は、昭和の空気を今に伝える古民家カフェで、讃岐うどんや田舎そば、チャンポンといった麺類から、ホットドッグやクロワッサンサンドなどの軽食まで幅広く扱っています。
山あいにひっそりと佇む「月と灯り」は、瀬戸内レモンを使ったクランブルチーズケーキなど、季節の素材を生かしたスイーツで評判の店です。三日月をイメージした灯りが灯る店内は、夕暮れどきに立ち寄るとまた違う表情になります。「珈琲や」は、古民家をリノベーションした落ち着いた空間で、庭を眺められるカウンター席やソファー席を備え、隠れたバイカーズカフェとしても親しまれています。木工作家によるギャラリーカフェ「ときとま」は、幻想的な世界観で女性客を中心に人気を集めているそうです。
宿場町の中には昔ながらの造り酒屋や和菓子店、地元産の食材を使った食事処も残っています。ポタリングの合間に立ち寄れば、地域の食文化にも自然と触れられます。自転車移動だからこそ、気になる店にふらりと立ち寄れる自由度の高さは、この旅のスタイルならではです。
矢掛町の特産品は梨・ぶどう・干し柿で青空市「きらり」に並ぶ
矢掛町は晴れの日が多い温暖な気候に恵まれ、梨やぶどう、イチゴといった岡山県らしいフルーツの産地としても知られています。町内には味覚狩りが楽しめる観光農園も点在し、いちご狩りやぶどう狩りに加えて、バーベキューやピザ作り、スイーツ作りといった体験メニューを用意する施設もあります。ポタリングの途中で立ち寄って、旬の果物をその場で味わうのも、自転車旅ならではのペース配分です。
野菜ではアスパラガス、リーキ(西洋ネギ)、ジャンボにんにく、自然薯などが矢掛ブランドとして認定されています。標高の高い小田地区山ノ上では、霧の上に柿を干せる気候を生かした干し柿づくりも盛んで、矢掛町を代表する特産品のひとつになっています。
こうした地元産の農産物を手に入れるなら、宿場町内で開かれる青空市「きらり」がおすすめです。地元で採れた野菜や果物、季節ごとの矢掛ブランド農産物が並び、旧山陽道の散策やポタリングの合間に立ち寄れば、旅の土産探しにもちょうどよい規模感です。
矢掛の宿場まつり大名行列は二〇二六年十一月八日(日)に開催される
矢掛宿を訪れるタイミングとして押さえておきたいのが、毎年十一月の第二日曜日に開催される「矢掛の宿場まつり大名行列」です。二〇二六年の場合は十一月八日(日曜日)にあたります。約八十名で編成された江戸時代さながらの大名行列が、「したにー、したにー」という掛け声とともに旧山陽道を練り歩く、矢掛町最大の観光イベントです。
行列には公募で選ばれる「姫君」役や「奥方」役をはじめ、家老、奉行、鉄砲隊、奴、腰元など多彩な役どころが用意されています。近年では矢掛町に暮らす、あるいは町内で働く外国人住民が「近習侍」などに扮して参加することもあるといいます。江戸時代の参勤交代の再現でありながら、現代の矢掛町らしい国際色も混ざり合った行列になっています。
大名行列以外にも、飛脚に見立てて健脚を競う「飛脚駅伝大会」や、地元の特産品が並ぶ「ふるさと物産市」、伝統芸能の奉納などが同時に行われ、旧宿場町一帯は朝から晩までにぎわいます。祭りの熱気を味わったあとに旧山陽道をポタリングで巡る旅程を組めば、江戸期の宿場町の姿と、現代の町の空気を一日で重ねて感じられます。開催日は例年十一月第二日曜日が目安とされていますが、最新の日程は矢掛町の公式サイトで確認しておくと確実です。
嵐山公園は小田川沿いから宿場町を見下ろせる桜と紅葉のビュースポット
矢掛宿を訪れるなら、町並みを見下ろせる高台の嵐山公園にも足を伸ばしたいところです。小田川を眼下に望み、宿場町の家並みを一望できるビュースポットとして知られ、春には桜、秋には紅葉が公園全体を彩ります。日没後にはライトアップも行われ、小田川の水面に光が反射する景色が広がるといいます。
ポタリングであれば、宿場町のメインストリートを走り終えたあと、少し坂を上って嵐山公園まで抜け、白壁の町並みを俯瞰する時間を旅程に組み込むのも動きやすい流れです。桜が見頃を迎える四月上旬から中旬、紅葉が色づく十一月ごろは特に人気が集まる時期で、写真映えする瞬間を狙いやすいタイミングでもあります。宿場まつりが行われる十一月と紅葉の時期が重なることも多く、歴史散策と紅葉狩りを一度に味わえる旅程を組めます。
矢掛宿の宿泊は矢掛屋INN & SUITESと二〇二五年開業のやかげ一譚が選択肢になる
日帰りのポタリングだけでなく、矢掛宿に一泊してじっくり旧山陽道の情緒を味わう楽しみ方もあります。代表的な宿泊施設が「矢掛屋 INN & SUITES」で、江戸時代の宿場町にそのまま泊まる発想のもと、古民家をまるごと生かした日本最大規模のまちごとホテルとして知られています。本館六室、温浴別館九室の合わせて十五室はすべて禁煙で、徒歩三十秒ほどの別館には湯の華温泉の入浴施設も併設されています。敷地内の古民家「備中屋長衛門」は、一日一組限定で最大十名まで宿泊できる全五十畳の一棟貸し施設で、グループ旅行や家族旅行にも対応できます。
さらに二〇二五年十月には、新しい古民家ホテル「やかげ一譚(いったん)」が開業しました。本館六室(うち一室はバリアフリー対応)、別館八室の合わせて十四室が、それぞれ異なる物語を紡ぐ空間としてデザインされていて、炭酸カルシウム温泉の大浴場と露天風呂も備えています。宿泊施設が増えたことで、矢掛宿は日帰り観光の目的地から、一泊二日でゆっくり滞在できる目的地に変わりつつあります。ポタリングで一日たっぷり走り、夜は宿場町の宿でくつろぐプランも組み立てやすくなりました。
ポタリング前の準備は速乾ウェアと補給食で二〇二三年四月からヘルメット着用は努力義務
ポタリングは、目的地や距離にこだわらず、散歩をする感覚でのんびり自転車を走らせる楽しみ方です。電動アシスト自転車を使えば、坂道や長距離でも体力の負担を抑えながら走れます。「体力に自信がない」「久しぶりに自転車に乗る」という人でも無理なく楽しめて、宿場町からもう少し足を延ばして小田川沿いや吉備路方面まで行動範囲を広げやすくなります。矢掛宿で初めてポタリングに挑戦するなら、まずは宿場町の中心部から五キロから十キロ程度を目安に走り、慣れてきたら小田川沿いや吉備路方面へと徐々にコースを広げていく流れが動きやすいです。
服装は、速乾性のあるTシャツやパンツなど、動きやすく快適なものを選ぶのがよさそうです。のんびりしたペースのポタリングでも、自転車に乗れば思いのほか汗をかくので、吸湿速乾性の高いウェアが快適です。季節によっては軽めのジャケットや羽織りものも用意しておきたいところです。持ち物としては、水分補給用の飲み物のほか、長めに走る予定があるなら軽い補給食も準備しておくと安心です。パンクなどに備えた簡単な修理キットや、雨具、タオルも荷物に加えておきたい装備です。
安全面では、令和五年(二〇二三年)四月の道路交通法改正により、自転車利用者のヘルメット着用が努力義務になりました。矢掛宿の道の駅や矢掛駅でレンタサイクルを借りる際も、ヘルメットの貸し出し状況を事前に確認しておくとよいでしょう。旧山陽道沿いは車の往来もあるので、装備で守れるところは守っておく方が、走りに集中できます。
矢掛宿ポタリングの一日モデルプランは道の駅を起点にして夕方に帰路につく
最後に、矢掛宿の宿場町散策と旧山陽道のポタリングを組み合わせて楽しむための、一日モデルプランを紹介します。午前中はJR岡山駅から井原鉄道・矢掛駅へ向かい、駅から徒歩で宿場町の中心部へ移動します。まずは旧矢掛本陣石井家住宅と旧矢掛脇本陣髙草家住宅を見学して、江戸時代の宿場町における格式やもてなしの文化にじっくり触れます。脇本陣は土日の午前十時から午後三時に限られるので、両方を見学したい方は週末の旅程を組んでおくと確実です。
昼前後には道の駅「山陽道やかげ宿」に立ち寄り、電動アシスト自転車をレンタルします。腹ごしらえに宿場町内の食事処や古民家カフェで郷土色豊かな料理やスイーツを味わったあと、午後は自転車で旧山陽道沿いの町並みをゆっくり走り、小田川沿いの田園風景や、少し離れた山手のカフェまで足を延ばします。体力と時間に余裕があれば、隣接する総社市方面の吉備路自転車道ルートへ合流し、備中国分寺の五重塔や古代吉備の史跡群を巡る流れも組めます。
夕方には再び矢掛宿に戻り、白壁の町並みが夕日に染まる時間帯の情緒を味わってから、道の駅や矢掛駅で帰路につきます。江戸時代の宿場町、明治から昭和のレトロな町家カフェ、そして令和のe-bikeによるアクティブな旅のスタイルまでを一日で重ねて体験できるのが、矢掛宿ポタリングの見どころです。
参勤交代の時代に整えられた本陣・脇本陣が両方とも現存する希少な歴史的価値と、道の駅の開業やレンタサイクルの充実で自転車で楽しみやすくなった観光地としての顔。矢掛宿は、この二つを同じ町の中で受け止められる場所です。新鮮な魚を運んだ「とと道」の逸話や、本陣・脇本陣の組み合わせ、うなぎの寝床の町家が続く八百メートルの町並み、水戸岡鋭治氏がデザインを手がけた道の駅、そして二〇二五年に開業した古民家ホテルまで、歴史と現代のデザインが折り重なった見どころが宿場町一帯に凝縮されています。日帰りでさらりと巡ることもできれば、まちごとホテルに一泊してじっくり滞在することもできるので、旅のスタイルに合わせて柔軟にプランを組める土地でもあります。桜や紅葉が彩る嵐山公園からの眺め、十一月の宿場まつり大名行列、地元産のフルーツや野菜を味わえる青空市など、季節や目的に応じて何度訪れても新しい発見のある町として、岡山旅行の候補に加えておきたい場所です。








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