岡山駅西口を出て数分歩くと、シャッターや看板に昭和の面影を残す通りが見えてきます。奉還町商店街と呼ばれるこの一帯は、全長およそ1キロという規模がちょうどよく、自転車でゆっくり流しながら回るポタリングに向いた場所です。古い看板建築の下に古着店やカフェが並ぶ昭和レトロな景観は、歩くだけでも楽しいのですが、自転車があれば商店街の先にある岡山城や岡山後楽園まで足を延ばせます。この記事では、奉還町商店街の成り立ちから、コミュニティサイクル「ももちゃり」を使ったアクセス方法、立ち寄りたいグルメや古着店、そして岡山城・後楽園と組み合わせたモデルコースまでをまとめました。

奉還町という名前は明治維新後の武士の再出発から生まれた
明治維新で廃藩置県が断行されると、岡山藩に仕えていた武士たちは身分と職を同時に失いました。生活の糧をなくした旧藩士を救うため、藩が支給したのが「奉還金」と呼ばれる金銭です。旧藩士たちはこの奉還金を元手に、岡山駅西口周辺の土地で商売を始めました。奉還町という地名、そして商店街の名前は、この奉還金に由来すると伝えられています。
つまり奉還町商店街は、武士という身分を捨てて商人として再出発した人たちの歴史を今に伝える場所であり、買い物通り以上の意味を持つ通りといえます。商店街としての最盛期は昭和15年から25年ごろとされ、当時は岡山県北部からもわざわざ買い物客が訪れるほどの賑わいを見せていました。岡山駅西口という立地の良さも重なり、県内有数の繁華な商店街として発展した経緯があります。
商店街の全長は約1キロ、通りの下には旧山陽道の記憶が眠る
奉還町商店街は、岡山駅西口の「西口筋」から国道180号線までのおよそ1キロにわたって続いています。奉還町二丁目のほぼ全域と奉還町三丁目の一部にアーケードが設置されており、雨の日でも自転車を押しながら歩ける造りになっています。
この通り全体が、かつての山陽道の旧街道筋にあたる点も見逃せません。江戸時代以前から人と物資が行き交った街道の記憶が、今も商店街の路面の下に眠っていると考えると、買い物だけでは味わえない歴史の重みを感じられます。
商店街は「奉還町商店街」と「西奉還町商店街」に分かれており、それぞれ店舗の顔ぶれが異なります。西奉還町側には昔ながらの商店が比較的多く残り、奉還町側つまり東側に進むにつれて古着店やカフェといった新しい業態の店が増えていく、というグラデーションが散策の楽しみになっています。
昭和レトロな景観は2014年公開の映画「でーれーガールズ」のロケ地にも選ばれた
地方の商店街は大型商業施設への建て替えが進みがちですが、奉還町商店街には古い看板建築や昭和期の店構えが数多くそのまま残っています。錆びついたシャッター、手書き風の古い看板、昭和のフォントで書かれた店名表示は、意図的な演出ではなく時間の積み重ねがそのまま景観になったものです。
この空気感は映像作品の制作者の目にも留まり、2014年には岡山を舞台にした映画「でーれーガールズ」のロケ地として使われました。作り込まれたセットではなく実際に人が生活している現役の商店街だからこそ出せるリアリティが、多くの人を惹きつけています。
岡山県内には昭和レトロな雰囲気を味わえるスポットが他にもあります。
| スポット名 | 特徴 | 立地 |
|---|---|---|
| 奉還町商店街 | 昭和期の看板建築が残り、古着店やカフェも増加中 | 岡山駅西口から徒歩4〜5分 |
| 五福通り | 看板建築が十数軒残り、「ALWAYS 三丁目の夕日」のロケ地にもなった | 岡山市内 |
| あの日のおもちゃ箱 昭和館 | 昭和期の玩具や生活雑貨を展示 | 美作市湯郷温泉街 |
この中でも奉還町商店街の強みは、新幹線停車駅である岡山駅から徒歩数分という近さです。日帰りはもちろん、乗り換えの合間の空き時間にも立ち寄れます。
アクセスは岡山駅西口から徒歩4〜5分、車の場合はレンタサイクルとの併用が現実的
JR岡山駅の在来線改札、または新幹線改札を出たら西口方面へ向かいます。駅の西側に出て北へ少し歩けば、ほどなく商店街の入り口に到着します。所要時間は徒歩でおよそ4〜5分です。新幹線停車駅からこれほど近い距離に、これだけ昭和の空気を残した商店街が存在していること自体が、県外から訪れる人にとって驚きになるはずです。
車で訪れる場合は周辺のコインパーキングを利用することになりますが、道幅が狭い箇所も多いため、駅周辺に車を停めてから自転車で回るという方法も現実的な選択肢です。
ポタリングは全長1キロの商店街に向き、岡山城までは自転車で15分
ポタリングとは、目的地に急いで向かうサイクリングとは異なり、気の向くままに町を自転車でぶらぶらと巡るスタイルを指す言葉です。奉還町商店街は、このポタリングというスタイルと相性が良い場所といえます。
理由の一つは、商店街の規模がちょうどよいことです。全長約1キロというサイズは、徒歩で歩き通すにはやや長く感じる一方、自転車であれば数分で端から端まで移動できます。気になる店の前で自転車を降りて立ち寄り、また少し進んでは別の店をのぞく、という「止まっては進む」というポタリングのリズムに合った距離感です。
もう一つの理由は、商店街の先にも自転車で足を延ばしたくなる観光地が点在していることです。岡山のシンボルである烏城こと岡山城、そして日本三名園の一つに数えられる岡山後楽園は、いずれも岡山駅から自転車でおよそ15分の距離にあります。奉還町商店街でレトロな町並みと買い物やグルメを楽しんだあと、そのまま城と庭園を巡る周遊コースを組み立てやすい点も見逃せません。岡山城周辺は気持ちの良い景色が広がるエリアとして紹介されることもあり、ポタリングの後半戦にふさわしい場所です。
レンタサイクル「ももちゃり」は60分100円、西口パーキング前ポートが起点になる
岡山でポタリングをするなら、岡山市が運営するコミュニティサイクル「ももちゃり」の活用が便利です。市内中心部には合計35カ所のポートが設置されており、24時間好きなタイミングで自転車を借りたり返したりできます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ポート数 | 市内中心部に35カ所 |
| 利用時間 | 24時間 |
| 料金 | 60分以内100円 |
| 奉還町最寄りポート | 西口パーキング前ポート(奉還町2丁目、24時間利用可) |
長時間・長距離の観光利用よりも、こまめに乗ったり降りたりを繰り返すポタリングのスタイルには、むしろ好都合な料金体系です。
奉還町商店街とのアクセスという点では、奉還町2丁目に「西口パーキング前ポート」が設置されています。岡山駅西口から商店街へ向かう動線上にあるため、駅に着いたらこのポートで自転車を借り、そのまま商店街へ走り出す流れが組みやすくなっています。ももちゃりの利用には事前の会員登録や利用手続きが必要になる場合があるため、訪問前に公式サイトのポートマップや利用方法を確認しておくと安心です。運営本部は岡山市北区柳町にあり、問い合わせ用のフリーダイヤルも用意されています。
モデルコースは商店街散策と岡山城・後楽園を組み合わせた半日ルート
岡山駅西口に到着したら、まずももちゃりの西口パーキング前ポートで自転車を借ります。そこから徒歩と同じくらいの短い距離で商店街の入り口に着くので、アーケードの下をゆっくり流しながら気になる店構えや看板を眺めます。西奉還町側から奉還町側へ向かって走ると、昔ながらの商店から新しい古着店やカフェへと町の表情が徐々に変わっていく様子を体感できます。
途中で気になる古着店やカフェがあれば自転車を降りて立ち寄り、ウィンドウショッピングや休憩を挟みます。昼どき、あるいは小腹が空いたタイミングでは、地元で長く愛されている定食屋や、ご当地グルメのデミカツ丼が味わえる店で食事を取るのもよいでしょう。
商店街を一通り走り抜けたら、そのまま岡山城・岡山後楽園方面へ向かいます。岡山駅からの所要時間はおよそ15分とされているので、商店街散策と合わせても半日程度で十分に周遊できるスケジュールです。烏城と呼ばれる漆黒の天守閣を眺め、隣接する後楽園で庭園の景観を楽しんだあと、再び岡山駅方面へ戻ってももちゃりを返却するという一日の流れが組み立てやすくなっています。
もちろん、商店街だけをじっくり巡るショートコース、あるいは岡山城・後楽園に加えて旭川沿いのサイクリングロードまで足を延ばすロングコースなど、時間や体力に応じて柔軟にアレンジできるのもポタリングの自由度の高さです。
| 施設 | 開園・開館時間 | 入園・入館料 |
|---|---|---|
| 岡山後楽園(3月20日〜9月30日) | 午前7時30分〜午後6時(入園は午後5時45分まで) | 大人500円、65歳以上200円 |
| 岡山後楽園(10月1日〜3月19日) | 午前8時〜午後5時(入園は午後4時45分まで) | 大人500円、65歳以上200円 |
| 岡山城 | 午前9時〜午後5時30分(入館は午後5時まで) | – |
岡山城は年末の12月29日から31日が休館日にあたります。ポタリングの途中で立ち寄る場合は、閉園・閉館時刻から逆算してルートを組んでおくと慌てずに済みます。
また、岡山駅と旭川方面を結ぶルートとして「旭川・りんくるライン」というガイドマップも整備されています。旭川沿いの歴史や季節の風景を感じながら走れるコースとして紹介されており、商店街での散策に物足りなさを感じた場合や、もう少し長い距離を走りたい場合には、こうした旭川沿いのルートを組み合わせるのもよいでしょう。
商店街グルメは昔ながらの「旭軒」からデミカツ丼の「能勢」まで幅が広い
奉還町商店街には、昔ながらの食堂から新しい感性のカフェまで幅広い飲食店が揃っています。
昔ながらの人気店としては「旭軒」が挙げられます。やきめしや中華そば、カレーなど家庭的なメニューを幅広く提供する定食屋で、焼き飯と支那そばの組み合わせが根強い人気を誇っています。地元客に長年愛されてきた味を求めて訪れる価値がある一軒です。
ご当地グルメを味わいたいなら「讃岐の男うどん 能勢 奉還町店」がおすすめです。豚カツにデミグラスソースをたっぷりとかけた岡山名物のデミカツ丼と、うどんのセットが名物メニューとして知られています。ボリュームのある食事をとりたいときにぴったりの一軒です。
カフェでゆっくり休憩したい場合は、2021年に奉還町4丁目にオープンした「Eats&CafeBar Craft」が候補になります。カフェタイムには深煎りのオリジナルブレンドコーヒーが楽しめるほか、建部町産の猪肉を使ったジビエ料理、オムライス、パスタなど食事メニューも充実しています。店内には約100種類近いボードゲームが無料で用意されており、休憩がてら少し長居したくなる空間です。
このほかにも商店街には複数の喫茶店やカフェが点在しており、レトロな喫茶店の趣を残す店から新しい感性を持ち込んだ店まで、食べ歩き・飲み歩きの選択肢に困ることはありません。
なかでも、リノベーション建築の先駆け的な存在として知られるのが、1986年から営業を続ける老舗喫茶店です。この建物はもともと店主の母が1923年、大正12年に質屋として創業した場所で、店内に残る蔵は築100年以上の歴史を誇ります。古い民家や蔵をそのままカフェとして活かす手法は今でこそ商店街のあちこちで見られますが、この店はその先駆けにあたります。看板メニューである花形のホットケーキやたい焼きに加え、モーニングやランチメニューも用意されており、サイフォンで一杯ずつ丁寧に淹れられるコーヒーとともに味わうひとときは、昭和の喫茶文化そのものを体感できる時間になります。ポタリングの合間に、気分に合わせて立ち寄る店を選ぶ楽しさも、この商店街ならではの魅力です。
古着店はおよそ10店が集積し、下北沢にたとえられる密度がある
奉還町商店街を語るうえで欠かせないのが、近年存在感を増している古着店の集積です。アメリカンカジュアルからロック系、レトロ、ヒップホップまでテイストの異なる古着店がおよそ10店ほど軒を連ねており、古着好きの間では古着の密集地帯として知られています。その雰囲気は、東京・下北沢の古着店街にたとえられることもあります。
具体的な店の例を挙げると、奉還町一丁目で営業する「ETERNITY」はメンズ・レディース・キッズまで幅広い商品を扱い、月に一度のペースでアメリカへ買い付けに出向いている本格派の一軒です。常時1万点以上の古着をストックしているという「REBORN」、90年代USAの古着を中心にSUPREMEやSTUSSYなどストリート系ブランドを扱う「SELEPIE」など、それぞれ品揃えの異なる店が点在しており、一軒ずつじっくり見て回るだけでも半日は楽しめるボリュームです。商店街全体では現在およそ90店近くが営業しているとされ、古着店以外にも多種多様な業態の店が混在していることがうかがえます。
古くからの商店街に新しい世代の店主が次々と出店し、レトロな商店街の景観の中に今どきの古着店が溶け込んでいる光景は、懐かしさと新しさが同居するこの町を象徴しています。
さらに奉還町商店街では、「古着LOVEフェスティバル in 奉還町」というイベントが春と秋の年2回開催されています。この期間中は商店街周辺に県内外からおよそ40店もの出店者が集まり、普段以上に多くの人で賑わう一大イベントになります。ポタリングの計画をこのフェスティバルの時期に合わせられれば、より一層活気のある奉還町の姿に出会えるはずです。開催時期は年によって変動するため、訪問前に最新情報を確認しておくとよいでしょう。
ポタリングを快適に楽しむための注意点は歩行者優先の徹底
奉還町商店街でのポタリングを気持ちよく楽しむために、押さえておきたい点があります。
まず、商店街のアーケード内は歩行者も多い生活道路である点を忘れてはいけません。買い物客や地元住民が行き交う中を自転車で走ることになるため、スピードを出さず歩行者優先を徹底することが前提です。混雑している時間帯や、店先に商品が並んでいる区間では、自転車を押して歩く判断も必要になります。
次に、レンタサイクルを利用する場合はポートの位置と営業状況を事前に確認しておくと安心です。奉還町2丁目の西口パーキング前ポートは24時間利用できるため、朝早くから夜遅くまで柔軟にスケジュールを組める点は心強い材料です。
服装や持ち物についても、古着屋やカフェを回ることを想定するなら、両手が自由になるリュックサックやショルダーバッグが便利です。夏場は炎天下でのポタリングになりやすいため、こまめな水分補給と休憩を心がけましょう。冬場は自転車で走ると体感温度が下がりやすいので、上着を一枚多めに用意しておくと快適に過ごせます。
また、岡山城・後楽園方面まで足を延ばす場合は旭川沿いの道を走ることになりますが、河川敷や橋のたもとは路面状況が変化しやすい箇所もあるため、初めて走るルートでは無理のないペースを心がけたいところです。
商店街の店舗の4割は40代以下の経営者が担う新しい担い手構成
奉還町商店街の魅力は、古い町並みが残っているという懐かしさだけにとどまりません。若い世代の出店者が次々と参入し、商店街そのものが今も変化を続けている点が大きな特徴です。空き店舗が出るとすぐに出店希望者が現れるほど人気が高く、店舗の約40%が40代以下の経営者によって営まれているというデータもあります。昔ながらの商店主と若い店主が同じアーケードの下で肩を並べている光景こそ、奉還町商店街の懐かしさと新しさが同居する評判の正体といえます。
こうした活気は地域ぐるみのまちづくり活動によっても支えられています。1999年5月に開設されたコミュニティ施設「奉還町りぶら」はその拠点の一つで、地元の学校やアーティストとの連携を強めながら、商店街を舞台にしたさまざまなイベントを企画・運営してきました。夏には「土曜夜市」が開催されて商店街全体が夜遅くまで賑わうほか、デジタル技術を活用したアートイベント、商店街の通りを使ったドローンレース、古着のフリーマーケット、ハロウィーンイベントなど、伝統的な商店街のイメージを覆すような企画が次々と実施されています。
こうした地道な取り組みが評価され、奉還町商店街は経済産業省・中小企業庁が選定する「がんばる商店街77選」にも名を連ねています。行政からもモデルケースとして注目される商店街でありながら、実際に歩いてみると気負いのない生活に根ざした雰囲気が保たれている点も、この商店街ならではのバランス感覚です。
ポタリングで奉還町商店街を訪れる際は、こうしたイベントの開催時期に合わせて計画を立てるのも一つの楽しみ方です。土曜夜市やハロウィーンイベント、古着フェスティバル、フリーマーケットといった催しの日程は年によって変わるため、訪問前に商店街の公式情報や奉還町りぶらの発信をチェックしておくと、より賑やかな奉還町の表情に出会える可能性が高まります。
奉還町商店街は、明治維新期の武士たちの再出発の物語を今に伝える歴史ある通りでありながら、昭和の商店建築が色濃く残るレトロな景観と、古着店やカフェといった新しい文化が共存する個性的なエリアです。岡山駅西口から徒歩わずか4〜5分というアクセスの良さは、忙しい旅程の中でも気軽に立ち寄れる利点であり、ももちゃりを組み合わせれば、商店街散策と岡山城・後楽園といった王道観光スポットまでを無理なく半日で周遊できます。急ぎ足の観光では見落としがちな路地裏の看板や、昔ながらの食堂の暖簾、古着店のディスプレイまで、自転車ならではのゆったりとした速度だからこそ気づける発見が、この町にはたくさん詰まっています。次に岡山を訪れる際は、自転車にまたがって奉還町商店街の昭和レトロな空気を感じるポタリングに出かけてみてください。









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