落としたバッテリーは、外から見て傷がなくても、安全に使えるとは限りません。中に入っているリチウムイオン電池は強い衝撃に弱く、落下は発熱や発火を招く原因の一つです。電動自転車のバッテリーを落としたら、まず充電と使用を止めて、ケースの割れや異臭、熱、エラー表示がないかを確かめ、少しでも不安があれば買った販売店かメーカーに点検を頼むのが安全です。
電動アシスト自転車の純正バッテリーは、ネットショップの掲載価格で4万円台から6万円前後します。使い続けるか交換するかを決める材料になるのは、見た目やにおいといった外側のサインのほか、走れる距離の縮み方、使ってきた年数、リコールの対象かどうかです。使えないと分かったバッテリーは一般ごみに出せず、処分の方法も決まっています。
落としたバッテリーが危ないのはセパレーターが壊れてショートするから

落下でいちばん怖いのは、電池の中でプラスとマイナスが直接つながる短絡(ショート)です。消防関係の機関は、落としたりぶつけたりした衝撃で電池内部のセパレーターが壊れると、正極と負極が触れ合ってショートし、火や煙が出る危険があると説明しています。
リチウムイオン電池が異常に熱くなるケースの多くは、この短絡が原因です。短絡が起きると一瞬で大きな電流と熱が生まれます。電池には燃えやすい材料が含まれているので、そこから発火や爆発に進むこともあります。
セパレーターは正極と負極を隔てる穴だらけの薄い膜
セパレーターとは、リチウムイオン電池の正極と負極のあいだに挟まれた多孔質の膜のことです。ごく細かい穴が無数に開いたフィルムで、両極が直に触れるのを防ぎつつ、その穴をリチウムイオンが通り抜けられるようにしています。
安全装置の役目もあります。異常な発熱で一定の温度に達すると穴が溶けてふさがり、イオンの移動を止めて電流を断つ設計があるのです。融点の違うポリプロピレンとポリエチレンを重ねた多層タイプや、セラミックなどのコーティングで熱に強くしたタイプもあり、メルトダウン温度を300℃以上まで高めた例も知られています。
熱暴走が始まると水では冷やしきれない
熱暴走とは、電池の中で発熱が連鎖して温度を抑えられなくなる現象です。ある部材の発熱が別の部材の発熱を呼び、温度が上がり続けます。きっかけは主に内部短絡と過充電、あるいはその両方が重なった状態です。
京都市は、内部短絡に至るまでをこう解説しています。過充電などによって負極の側にリチウムがたまりすぎると、デンドライトと呼ばれる針状の結晶ができます。この結晶がセパレーターを突き破って正極に届くと、大電流が流れて熱が出ます。
電解液は有機溶媒にリチウム塩を溶かした液体で、引火しやすい性質を持っています。発熱で電解液が反応し、そのまま発火に至る経路もあります。熱暴走は水をかけても冷やしきれず、いったん収まったように見えても再び燃え出す「再着火」が起きやすいため、消火に時間がかかります。
1回の落下なら問題ないことが多く、繰り返すと発火のおそれ
堺市は火災予防の案内で、リチウムイオン電池が発熱や発火を起こす原因として、強い衝撃、高温の環境、不適切な充電、劣化を挙げています。なかでも落下などの強い衝撃を、よくある原因の一つに位置づけています。
さいたま市も、落としたり押しつぶしたりすると中が傷んで熱や火が出ることがあるとして、落下させないこと、無理に分解しないことを求めています。仙台市が呼びかけているのは、強い衝撃や圧力を加えないことと、異常を感じたら使うのをやめることの2点です。
製品メーカーで事故調査を担当する人は、1回落としたくらいなら問題ないことが多いと話しています。ただし、落とす回数が重なるとバッテリーの内部が傷つき、火が出るおそれが生まれるそうです。
NITEが把握した電動アシスト自転車の事故は2017〜2021年で366件
NITE(製品評価技術基盤機構)が把握している電動アシスト自転車の事故は、2017年から2021年までに366件あります。事故はリコールの前後に集中しました。2020年以降は減ったものの、毎年一定の件数が起きています。
電動アシスト自転車などの事故は夏場にとくに増える傾向があり、NITEが注意を促しています。
充電中の火災については、自転車産業振興協会がまとめた数字があります。ある年度に、電動アシスト自転車のリチウムイオンバッテリーが充電中に火災を起こした事案が10件あり、前の年度より4件増えました。2019年に東京都で起きた火災は、製品の結露対策が足りずに制御基板の絶縁性が落ちたことが、出火の原因とみられます。火元になった製品は、リコールがかかっていたものでした。
NITEは製品事故の原因を調べて公表する独立行政法人
NITEとは、一般の消費者が使う製品の事故を減らすことを目的にした独立行政法人です。事故の情報を集めて原因を調べ、その結果を公表することで、同じ事故の再発を防ぎ、新たな事故を未然に防ごうとしています。
落としたあとに確かめるのはケース・におい・熱・電源の4点

落としたバッテリーを見るときは、ケースのひび割れやへこみ、変形がないか、異臭や液漏れがないか、手で触れて異常に熱くないか、充電したのに電源が入らなかったり、すぐ切れたりしないかの4点を確かめます。電源にこうした症状が出ていれば、深刻に劣化している可能性があります。充電中にバッテリーが異常に熱くなったときは、すぐに使用を中止する必要があります。
外側に何も見当たらなくても、それで安心はできません。内部の損傷は目では確かめられないからです。
ブリヂストンサイクルは落下と衝撃を乗車前の重要点検項目にしている
ブリヂストンサイクルは安全に関する案内のなかで、乗車前にとくに大事な点検として、落下や衝撃でバッテリーが壊れていないことを挙げています。
同じ案内には、バッテリー単体での確かめ方も載っています。バッテリー残量表示ボタンを押して、エラー表示が出ないかを見る方法です。自転車から外した状態のまま確かめられます。
自己診断の手順と表示の意味は機種ごとの取扱説明書で確認
電動アシスト自転車の多くは、バッテリーの状態を簡易的に調べられる自己診断機能を備えています。ただし、操作の手順も表示の意味もメーカーや機種ごとに違うため、自分の車種の取扱説明書かメーカーのサイトで確かめる必要があります。
パナソニックサイクルテックは機種ごとに取扱説明書を用意しており、その中に「バッテリーについて」「故障かな?」「定期点検について」「運搬/保管/廃棄について」の各章があります。「ギュット・クルーム R・DX」の説明書なら、バッテリーの章は76ページ、定期点検の章は84ページです。落としたあとの扱いに迷ったら、まず手元の機種の説明書でこれらの章を開くのが近道です。
走れる距離が同じ条件で40%以上短くなったら交換を検討

バッテリーの状態は、走れる距離の変化からも読み取れます。購入したときと同じ条件で走って比べ、20〜30%短い状態が続けば注意が要り、40%以上縮んだら交換を考える段階、という目安があります。落としたあとで走れる距離がはっきり縮んだなら、中で劣化や損傷が進んでいるおそれがあります。
Ah(アンペアアワー)が大きいほど1回の充電で長く走れる
Ahとは、バッテリーの容量を表す単位です。数値が大きいほど多くの電気をためられ、おおむね充電1回あたりの走行距離も長くなります。ブリヂストンはある製品で容量を4.3Ahから6.6Ahへ引き上げた結果、1回の充電で最長32km走れるようになりました。容量が最大17.6Ahのパナソニックのモデルは、最長約176kmと記載されています。
もっとも、実際に走れる距離は乗り方で大きく変わります。同じバッテリーでもアシストモードによって距離が違い、8.0Ahのバッテリーを積んだ製品には、ロングモードで約53kmとする例や、スマートパワーモードで約68km(充電は約4.5時間)とする例があります。カタログの数値は一定の条件で測った目安で、坂道、体重、気温、荷物の量によっても変わります。
使い始めて3〜4年を超えたバッテリーは落下を機に交換を考える時期
電動アシスト自転車のバッテリーは、一般に使用年数で3〜4年、充電の回数にして700〜900回ほどで寿命を迎えます。この数字は、容量が最初の50%程度まで落ち、実用に足りる走行距離を保てない状態になる時期を表しています。寿命をバッテリー2〜5年、自転車本体7〜10年とする紹介もあります。
3〜4年以上使っているバッテリーなら、落としたことをきっかけに交換を考えてよい時期です。
700〜900回はサイクル寿命で数えた回数
サイクル寿命とは、充電と放電を1セットとして、その回数で電池の寿命を表す指標です。0%から100%まで充電して0%まで使い切るのが典型的な1サイクルですが、途中までの充放電でも合わせて100%分になれば1サイクルと数えるのが一般的です。
蓄電池のカタログに「4,000サイクル」などと書かれていれば、それだけの回数を充放電しても初期容量の一定割合を保てるという意味で、品質保証の基準として使われています。寿命に達するまでの回数は、充放電の試験結果をもとに決められます。同じサイクル数でも、放電の深さ(DOD)によって実際の寿命は変わります。
残量20〜30%で充電し、15〜25℃の室内で保管する
劣化を抑える使い方としては、充電は残量が20〜30%に下がってから始め、満充電の状態で置きっぱなしにせず、充電と保管は15〜25℃の室温で行うよう勧められています。
置き場所は、暑すぎず寒すぎない室内の、涼しく乾いた場所が基本です。電動自転車のバッテリーを扱った解説の一つは、充電5〜45℃、保管5〜20℃、走行約20℃を目安に挙げ、この範囲を大きく外れると、容量が落ちるほか、内部が元に戻らない形で傷んだり、火災の危険が増したりすることもあるとしています。寒い日は、満充電にしても容量が下がることがあります。機種ごとの指示は取扱説明書で確認できます。
長く使わずに充電できないときは過放電を疑う
過放電とは、放電が進みすぎて、残量がゼロになるまで使い切ってしまった状態のことです。電源をオフにしていても電気はわずかずつ減っていくので、長く放っておくと残量がゼロになり、過放電に陥ります。
電圧がひどく下がったまま長期間置くと、電池が大きく傷み、容量が大幅に減ります。多くのリチウムイオン電池は完全な過放電を防ぐ安全装置を備えていますが、長く使わなかった機器が充電できなくなる例もあります。長期保管では過放電を避け、60〜80%ほど残しておくよう勧められています。
落とした覚えとは別に、しばらく乗っていなかったバッテリーが充電できない場合は、過放電も疑えます。
保護回路のBMSが過充電や過熱から電池を守っている
BMS(バッテリーマネジメントシステム)とは、電圧や温度、充放電の様子を見張り、過充電や過放電、過熱、低温から電池を守るための制御回路のことです。電動アシスト自転車に使われるリチウムイオン電池にも、この保護回路が入っています。
BMSは、セルごとの温度、電圧、健全性状態(SOH)、充電状態(SOC)を追いかけています。動き方を監視し、必要ならバッテリーを遮断したり、充電や放電の割合を変えたりして、危ない状態になるのを未然に止めます。この保護が重要とされるのは、リチウムイオン電池が過充電や過放電、大きな電流、許容範囲外の温度での使用で熱暴走を起こし、発火や爆発に至るおそれがあるからです。過電流を防ぐこと、温度を管理すること、残量(SOC)を計算すること、セルごとの電圧をそろえるセルバランスも、BMSの役目です。
ヤマハ発動機とブリヂストンサイクルは型番と製造ロットでリコール対象を判定
落としたバッテリーに異常が見当たらない場合も、リコールがかかっていないかは確かめておくと安心です。バッテリー本体のラベルにある型番と製造ロットを先に控えておくと、照らし合わせがスムーズに進みます。
| メーカー | 対象のバッテリー | 内容 |
|---|---|---|
| ヤマハ発動機 | 2016年8月〜2018年12月製造分の一部で、「PAS」用と交換用(X0T型、X0U型)、244,836個 | 充電中や保管中に内部の劣化などで発火する可能性があるとして、事故防止のために無償交換 |
| ブリヂストンサイクル | C301型、C400型 | 無償交換 |
| パナソニック | 2005〜2015年に売られた電動アシスト自転車の大半に取り付けられるバッテリーパック | 自転車本体の機種品番からは対象のバッテリーを特定できない |
ヤマハ発動機とブリヂストンサイクルが無償交換するのは、ラベルの「バッテリー型番」と「製造ロット」が両方とも対象に一致した場合だけです。対象ロットの記載がないものは交換の対象外になります。
対象品を持っている人で、まだ回収や交換を受けていない場合は、すぐ使用をやめて事業者に連絡することになっています。経済産業省の「リコール情報」ページには、リコールの内容のほか、事業者ごとの問い合わせ先や、各社のリコール情報へのURLも載っています。
交換するなら純正品で、価格は4万円台から6万円前後
落としたバッテリーの代わりを買うなら、純正品を選ぶことが大切です。NITEは、純正品に似た形の安い「互換バッテリー」や、「純正充電器対応」をうたう製品のなかに、危険性の高いものが混じっていると注意を呼びかけています。
電動アシスト自転車の非純正バッテリーの内部で短絡が起きて異常に発熱し、焼けたとみられる事例も、NITEは紹介しています。NITEが把握している非純正バッテリーの事故は235件で、2019年に急に増え、2020年以降も横ばいの傾向です。
ネットショップに載っている純正バッテリーの価格
ネットショップに掲載されている純正バッテリーの価格は、下の表のとおりです。価格は店やセールによって変わります。
| メーカー | 品番・種類 | 容量 | 掲載価格 |
|---|---|---|---|
| パナソニック | NKY580B02 | 16Ah | 42,572円 |
| パナソニック | NKY578B02 | - | 40,650円 |
| パナソニック | NKY594B02(スペアバッテリー) | 16Ah | 47,800円 |
| ブリヂストン | BT-B400 | 36.5V 9.9Ah | 41,100円 |
| ブリヂストン | リチウムイオンバッテリーC400 | 15.4Ah | 59,800円 |
どれも高い買い物なので、落下で状態が心配なときは、点検で使えるかどうかを確かめてから交換を決めることになります。表の16Ahや9.9Ahは、先に説明したAh(容量)の数値です。交換するときは、容量の大きさに加えて、自分の自転車に合う型番かどうかもあわせて確認します。
互換バッテリーを検討するときはPSEマークの表示が最低限の確認事項
PSEマークとは、電気用品安全法の基準を満たした電気用品であることを示すマークです。リチウムイオン蓄電池については、2018年2月1日に「電気用品の範囲等の解釈」が改正され、モバイルバッテリーなどのポータブルリチウムイオン蓄電池も規制を受けるようになりました。そして2019年2月1日からは、マークのないモバイルバッテリーなどを作ることも、輸入することも、売ることも認められていません。
「特定電気用品以外の電気用品」に分類されるリチウムイオン蓄電池には、丸形のPSEマークが付きます。
リチウムイオン蓄電池の販売について、経済産業省は、電気用品安全法の技術基準を満たし、PSEマークを付けることを条件にしています。互換品を検討する場合でも、このマークがあるかどうかは最低限見ておきたい点です。
使えなくなったバッテリーは一般ごみに出さず回収ルートへ
使えなくなったバッテリーを、一般ごみに混ぜて捨ててはいけません。収集車のなかでほかのごみと一緒に押しつぶされて電池が壊れ、収集車や処理施設が燃える事故が起きています。環境省は、リチウム電池が原因とみられるごみ処理施設や収集車での出火・発煙が、2023年度に2万件を超えたとしています。
手放す方法は主に3つあります。1つ目は購入した自転車店への持ち込みで、店によっては新しいバッテリーを買うことが条件になります。2つ目はJBRC協力店への持ち込みで、家電量販店やホームセンターなども協力店になっています。3つ目は自治体の回収ですが、対応は自治体ごとに違います。小型充電式電池を資源ごみの日に集めるようになった自治体がある一方、滋賀県は、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池の処理が技術的に難しいため、回収を行っていない市町もあると案内しています。JBRCの対象外なら、ルールは住んでいる市町の広報誌やホームページで確認できます。
出す前には、端子をテープで覆って絶縁します。膨張したり破損したりした電池は、缶のような容器に入れて保管します。
JBRCは小型充電式電池のリサイクルを担う一般社団法人
JBRCとは、小型充電式電池のリサイクルに共同で取り組む一般社団法人です。会員は、「資源の有効な利用の促進に関する法律」(2001年施行)によって回収と再資源化を義務として課された電池メーカーや機器メーカー、輸入事業者などです。
回収するのは会員企業のニカド電池とニッケル水素電池、リチウムイオン電池の3種類に限られ、鉛蓄電池は対象外です。協力店とは、消費者が持ち込む小型充電式電池の回収に協力している小売店のことで、電器店やスーパー、ホームセンター、自転車店などが該当します。持ち込んだ電池は店頭のリサイクルBOXに入れます。回収にお金はかかりませんが、店までの交通費は自己負担です。
JBRCの公式サイトでは、協力店と協力自治体を調べられます。2021年には、リサイクル協力店として約2万1000店が全国で登録済みとされていました。
落としたら充電を止めて確かめ、迷ったら販売店かメーカーへ
電動自転車のバッテリーを落としたときは、まず充電と使用を控えます。次にケースのひび割れやへこみ、異臭、液漏れ、発熱がないかを見て、自転車から外したバッテリーの残量表示ボタンを押し、エラーが出ないかを確かめます。
「バッテリーについて」と「故障かな?」の章を取扱説明書で読み、ラベルの型番と製造ロットからリコールの対象かどうかも調べておきましょう。少しでも異常があれば使うのをやめ、購入店かメーカーに点検や交換を相談してください。もう使えないバッテリーは、JBRC協力店、購入店、自治体のルールのどれかに従って処分します。
点検で問題がなく使い続けるなら、次は毎日の充電でバッテリーを傷めないことが大切です。気温が下がる時期の充電のしかたは冬の電動自転車バッテリーの充電方法と発火を防ぐ注意点にまとめています。








