横手市増田の内蔵をポタリングで巡る、秋田の蔵の町並み約400m

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秋田県横手市増田町の「増田の町並み」は、2013年12月に国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれた商家の町です。中七日町通りの約400メートルに内蔵が40以上あるそうで、自転車でのんびり巡るポタリングにちょうどよい広さです。通りに面した主屋は控えめな構えですが、その奥には、雪から守るための屋根をかぶった大きな土蔵が隠れています。

内蔵の中を見られるのは公開家屋に限られます。毎年秋の「蔵の日」には普段閉じている建物も扉を開け、2026年は10月4日に開かれました。毎月2・5・9のつく日には380年以上続く朝市が立ち、町並みの近くには横手市増田まんが美術館や、1689年創業とされる酒蔵もあります。

目次

増田の蔵の町並みは約400メートルに内蔵が集まるポタリング向きの広さ

増田の町並みを自転車で回るなら、中七日町通りをゆっくり進むのが合っています。内蔵が集まる範囲は、約400メートルの通り沿いに収まっています。

ポタリングとは、行き先をきっちり決めずに、散歩に近い感覚で自転車をこぐ楽しみ方のことです。語源は「ぶらつく」という意味の英語potterだそうで、言葉そのものは1950年代にはもう使われていました。サイクリングの一種ですが、自転車で走ること全般をさすサイクリングに比べて、よりゆったりと散策する点が違います。何キロ走る、どのくらいの速さで、といった決まりはなく、頑張りすぎない程度で十分です。乗る自転車も選ばず、ママチャリでもミニベロでもかまいません。道沿いの小さな店や景色に目が向きやすいのが、この走り方のよさでしょう。

通りでは主屋を眺め、公開家屋では奥の内蔵へ

走りながら気になる家があれば、前で止まって主屋をじっくり見てください。公開されている家屋なら、建物の奥まで入って内蔵の中を見学できます。

立ち寄る棟数を先に決めると時間が読みやすい

公開家屋は、1棟の見学に20分から30分ほどかかります。途中で何棟に寄るかを出発前に決めておけば、時間の割り振りで迷いません。町並みを見て回る時間と、地区の間を行き来する時間は、別々に見積もっておくとよいでしょう。

確保できる時間見学できる公開家屋の目安
1時間2棟から3棟
2時間4棟から5棟

増田の内蔵は主屋の奥の土蔵を「鞘」で覆った雪国の造り

内蔵(うちぐら)とは、主屋の裏手に建てた土蔵を「鞘(さや)」という屋根ですっぽり覆い、主屋とひと続きにした蔵のことです。増田の商家の多くが、この大きな蔵を家の奥に構えています。

鞘をかける理由は雪です。増田は日本でも指折りの豪雪地帯で、鞘があれば土蔵の壁が雪や雨にさらされず、冬でも家の中から濡れずに蔵まで行けます。そうした土地で暮らすための知恵から生まれた造りだそうです。

蔵を店の裏に置く必要があったことは、町の区画にも表れています。通りに面した間口が狭く、奥へ長く伸びる敷地が並ぶのは、そのためです。細長い建物がこの形の敷地にぎっしり並ぶ景色が、増田の町並みの持ち味です。

内蔵の造りは一様ではなく、建てた時代や使い道によって違います。当時の最先端の左官技術を使った意匠も、見学のときに目を向けたいところです。

内蔵の芯になる土蔵は厚い土壁と漆喰で火に強い

土蔵とは、木で組んだ骨組みの外側を約20センチから30センチの厚い土壁でくるみ、白や黒の漆喰で仕上げた蔵です。中に入ると、木組みがそのまま見えます。木造の家屋が火事で燃えやすかった時代には、大切な品を火から守る場所でした。米や酒、繭などをしまうのにも使われ、火にも湿気にも盗みにも強い構造とされています。

漆喰は雨に弱いため、昔から土蔵の外側に別の屋根や瓦をかけて保護してきました。増田で土蔵に鞘をかぶせるのも、同じ考え方の延長にあります。

弱点になりやすい扉には、木の枠を土壁や漆喰でくるんだ土戸(防火扉)を用いました。壁に瓦を貼り、継ぎ目に漆喰を盛り上げて雨水や火を防ぐ「なまこ壁」も、蔵でよく見かける仕上げです。

内蔵の意匠を支える左官の仕事

左官とは、コテなどの道具で壁土やモルタル、漆喰、珪藻土といった自然素材を塗っていく工事、またはその職人をさす言葉です。建物の仕上げを最後に受け持つのが左官です。

日本では漆喰を壁や床、天井に塗る工法が長く主流で、模様をつけたり「こて絵」という飾りを施したりするところまで技が磨かれました。土壁は、下地の荒壁をつくってから中塗りをし、最後に漆喰を上塗りする、という工程を重ねて仕上げます。湿気の多い日本で漆喰や土壁が好まれてきたのは、湿度を整える働きがあるからです。

壁紙が広まったことなどで左官職人は減ったとされますが、化学物質を気にする声もあって、昔ながらの左官仕上げが見直されています。技能検定は1級から3級まであります。増田の内蔵で見られる凝った意匠は、こうした職人の手仕事を積み重ねた成果です。

中七日町通りの商家は切妻造妻入で、三角の壁が通りに向く

中七日町通りの商家や家屋は、明治期から昭和30年代までの間に建ったもので、切妻造妻入の建物が中心です。

切妻造とは、棟を境に両側へ下る二つの斜面でできた、いちばん基本的な屋根の形です。平面が四角い建物なら屋根は2面で済むので、工事費を抑えやすく、雨漏りもしにくい形とされています。

妻入と平入の区別は、屋根の形ではなく、入口がどこにあるかで決まります。妻とは、建物の短い辺の側にできる三角形の壁面のことです。入口がこちら側にあれば妻入、屋根の斜面と同じ側(平側)にあれば平入と呼びます。つまり同じ切妻造の建物でも、入口の向きしだいで妻入にも平入にもなります。増田の通りに立つと三角の壁面がいくつも道のほうを向いて並んで見えるのは、商家の多くが短い辺を通りに向けた妻入だからです。

内蔵の中を見られるのは公開家屋で、旧佐藤又六家住宅もその一つ

増田の内蔵は、多くがいまも商家の家系の人たちの住まいや店として使われています。思い立ったときに好きな家へ入れるわけではなく、見学は公開している家屋に限られます。

旧佐藤又六家住宅は味噌で栄えた商家

見学できる内蔵の一つが旧佐藤又六家住宅です。代々の商家で、明治の中ごろには村内で売れる味噌のうち過半をこの家が売っていたという話が残ります。北都銀行の前身である増田銀行の創設者には、この家の9代目も名を連ねています。建物は国の登録有形文化財の扱いです。

見学料は大人も子どもも200円だそうです。公開時間や休みは変わる場合があるので、出かける前に確かめておくと安心です。

佐藤家住宅は店舗ごと内蔵に収めた「店(見世)蔵」

国の重要文化財に指定されている佐藤家住宅は、店舗を内蔵の中に組み込んだ「店(見世)蔵」という珍しい造りです。主屋の奥に内蔵を置く増田のふつうの商家とは、見た目からして異なります。

見世蔵(店蔵)とは、店と住まいを兼ねた蔵造りの町家のことです。漆喰や木骨による蔵の建築様式でつくられ、街道に面して商いをする1階と、火や劣化に強い土蔵造りの2階以上を組み合わせたものが各地に残っています。

重要文化財と登録有形文化財は保護の強さが違う

重要文化財は国が「指定」し、登録有形文化財は国が「登録」します。どちらも有形文化財の仲間ですが、守り方の強さに差があります。

重要文化財は、特に重要なものを選び抜き、許可制などの厳しい規制をかけて手厚く守る指定制度の対象です。いっぽう登録有形文化財の制度は、重要文化財に入らない有形文化財の中から、残して使っていくための手当てがとりわけ必要なものを選んで登録します。届出制と、指導や助言、勧告を軸にした緩やかな保護によって、指定制度を補っています。現状に手を加える場合は、その30日前までに文化庁長官への届出が必要です。

建造物の場合、登録の対象は原則として建ててから50年を過ぎ、一定の評価を受けた歴史的建造物です。この制度は1996年(平成8年)10月1日に施行された文化財保護法の改正で生まれ、主に近代の建物を残すことをねらいとしています。

普段は閉じた内蔵も開く「蔵の日」は毎年秋、2026年は10月4日に開催

「蔵の日」は、毎年秋に開かれる街歩きのイベントです。ふだんは公開していない建物も含め、たくさんの内蔵がこの日に扉を開けます。

第17回にあたる2025年10月5日は、国指定の重要文化財である旧松浦家住宅など24棟が見学できました。

2026年の開催日は10月4日でした。増田中学校の生徒がつくった「蔵カード」を当日に配る予定と報じられていました。カードは全24種類で、その日に公開される24棟を1枚ずつ紹介する内容です。町の中学生が地元の蔵を案内する取り組みで、集めながら歩くスタンプラリーに近いものでした。

増田が商家の町として栄えたのは、川と街道が交わる場所にあったから

増田のにぎわいを支えたのは立地です。町は成瀬川と皆瀬川が合わさる地点にあり、小安街道と手倉街道が分かれる場所でもありました。川を使った物流と、街道を通じた仙台藩との往来が重なり、物資が集まっては各地へ散っていく拠点として、江戸時代から行き来の多い土地になりました。

増田城の城下町から朝市の町へ

町の始まりは1300年代で、増田城を中心にした城下町でした。城は1600年代の初めに取り壊されましたが、町はその後も成長を続けました。1643年には朝市が立つようになり、地域の経済の中心を担いました。

手倉街道は仙台藩につながる道

増田から仙台藩へ通じていたのが手倉街道です。旅人はこの道で乗り継ぎ、江戸のほうへ進むことができたそうです。横手市の歴史的風致の計画でも、街道の結節点に生まれた在郷町の一つとして増田の名が挙がっています。在郷町は、城下町とは別に、農村の中で商工業によって栄えた町のことです。

明治から大正にかけて県内有数の商業地に

17世紀後半から20世紀初頭まで、増田は栄え続けました。19世紀後半にはタバコと絹の産地として県内で指折りの存在になり、明治から大正には県内有数の商業地へと育ちました。いま残る内蔵つきの商家は、この時代の繁栄を伝える建物です。

増田の町並みは2013年12月に重伝建地区に選ばれ、修理と修景で守られている

国が増田の町並みを重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に選んだのは、2013年(平成25年)12月です。保存地区の面積は約10.6ヘクタールで、町の中心部を貫く中七日町通りに沿って広がっています。

重伝建地区は市町村が決め、国が選ぶ二段階の仕組み

1975年(昭和50年)に文化財保護法が改正され、伝統的建造物群保存地区という制度ができました。城下町や宿場町、門前町のような歴史ある町並みを残すための制度です。

地区を決めるのは市町村で、保存条例を定め、その条例にもとづいて保存活用計画をつくります。そのなかで国にとって特に価値が高いものを、市町村からの申し出を受けて文部科学大臣が選んだものが、重要伝統的建造物群保存地区にあたります。根拠は文化財保護法第144条です。

文化庁や都道府県教育委員会は、市町村に指導や助言をします。修理と修景の事業、防災設備の整備、案内板づくりなどが補助の対象で、税の優遇措置も設けられています。令和8年9月4日時点で全国の130地区、合計約4,072ヘクタールが選定されていて、増田はそのうちの一つです。

伝統的建造物は修理、それ以外の建物は修景で整える

保存地区の建物のうち、町並みの価値を担うと認められたものは「伝統的建造物」に特定されます。伝統的建造物の修理は外観を保つことが目的で、原則として現状を維持するか元の姿に戻す方法で行う、という基準が各地で示されています。

修景とは、伝統的建造物以外の建物を地区にふさわしい外観に整えることです。改造や老朽化、歴史的な風情に合わない手直しが入った建物を、修理や修景によって町並みになじむ姿にしていきます。

地区の中で建物を建てたり変えたりするには、市町村の条例による許可が必要です。許可の基準は、地区内で最低限守るべきルールとしてまとめられています。増田の古い商家の町並みも、この仕組みで守られてきました。

増田の朝市は毎月2・5・9のつく日、7時から12時まで

増田の朝市が立つのは毎月2・5・9のつく日で、場所は横手市増田町増田中町の朝市通り、時間は7時から12時です。周辺の農家や商店が60あまり店を出し、市そのものは380年以上の歴史をもちます。

町並みのまわりには酒蔵もあります。

日の丸醸造は1689年創業とされる酒蔵

日の丸醸造は、1689年(元禄2年)の創業とされ、横手市に蔵を置く酒蔵です。一度は廃業に追い込まれましたが、昭和23年以降に復活し、いまも酒を造り続けています。昔ながらの製法を残しながら設備にも投資して効率を高めていて、酒の仕込みには奥羽山系の伏流水が使われます。

横手市増田まんが美術館は常設展が無料、駐車場は180台

町並みのすぐ近くに、横手市増田まんが美術館があります。住所は秋田県横手市増田町増田新町285です。

開いているのは10時から18時まで、最終入館は17時30分です。毎月第3火曜日が休館日で、その日が祝日なら翌平日が休みです。常設展は無料、特別企画展は有料になります。無料の駐車場が180台分あり、増田蔵の駅からは歩いて約8分です。

増田へは十文字駅からバスかタクシーで約10分

鉄道で向かうなら、最寄り駅はJR奥羽本線の十文字駅です。秋田駅を出て在来線に約85分乗ると十文字駅に着き、そこから羽後交通のバスかタクシーに乗れば約10分です。バスなら増田蔵の駅で降りて町並みまで歩けますし、四ツ谷で降りる場合も十文字駅から約10分です。

羽後交通には、横手駅東口から増田蔵の駅へ向かう便もあります。ただ昼間は本数が少なく間隔が空くので、帰りの時刻は出かける前に調べておくと安心です。

車で行く場合は、湯沢横手道路を十文字ICで降りて約10分から15分です。

散策の拠点は案内所「ほたる」と観光物産センター「蔵の駅」

町並みを回るときの拠点は、中七日町通りの南側にある増田の町並み案内所「ほたる」です。営業は9時から17時で、年末年始は休みになります。地図や公開家屋の案内は、増田観光物産センター「蔵の駅」でも確認できます。

増田のポタリングは朝市の日に合わせれば1日でまんが美術館まで回れる

朝市の立つ日に訪ねれば、朝は市場、そのあと町並み、続いてまんが美術館と、1日をゆったり使って巡れます。中七日町通りの約400メートルに40以上ともいわれる内蔵が並ぶ秋田県横手市増田町の重伝建地区は、自転車でゆっくり進んでも無理のない広さです。公開家屋は1棟20分から30分を見込み、寄る棟数を決めてから走り出してください。普段は非公開の蔵まで開くのは、毎年秋の「蔵の日」です。

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