茨城県桜川市の真壁は、江戸時代の町割りがほぼそのまま残り、江戸末期から昭和初期に建った見世蔵や木造の店が通りに並ぶ町です。2010年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれました。つくば霞ケ浦りんりんロードの真壁休憩所が町並みのすぐ隣にあり、岩瀬から約10km走れば着くため、自転車でのんびり回るポタリングの行き先に向いています。
蔵や土蔵、門を合わせた歴史的建造物は市街地に300余棟あり、そのうち100棟余りが国の登録有形文化財です。冬の終わりには「真壁のひなまつり」、夏には真壁祇園祭が開かれます。

真壁の町並みは約17.6ヘクタールが重要伝統的建造物群保存地区
真壁地区は筑波連山のふもとにあり、2010年(平成22年)6月29日、「桜川市真壁伝統的建造物群保存地区」の名で国の重要伝統的建造物群保存地区になりました。範囲の広さは約17.6ヘクタールです。
重要伝統的建造物群保存地区は、城下町や宿場町、門前町に残る歴史的な町並みを守るための国の制度です。土台になった伝統的建造物群保存地区の制度は、1975年(昭和50年)の文化財保護法改正で始まりました。手順としては、まず市町村が保存条例で地区を決め、保存活用計画をつくります(文化財保護法第143条)。そのうえで市町村からの申出を受けた国が、価値の高い地区を選びます(同法第144条)。文化庁の公表では、2026年(令和8年)9月4日の時点で全国107市町村の130地区が選定を受けています。
守られるのは建物だけではありません。樹木や庭園、池、水路、石垣も環境物件として保護の範囲に入ります。国や都道府県は、修理や修景の事業、防災設備や案内板の設置に補助を出しており、税制面の優遇もあります。
修理は伝統的建造物、修景はそれ以外の建物が対象
保存地区の整備では、修理と修景をはっきり分けて扱います。修理は、伝統的建造物の外観を保つための工事で、修理基準に沿って行います。修景は、伝統的建造物ではない建物を周囲の町並みになじませる整備のことです。建物を建てるときに町並みとの調和をどう図るかは、修景基準で決められています。どちらの基準も地区ごとの保存計画で具体的に定められ、基準どおりの工事には予算の範囲で補助金が交付される例があります。
見世蔵は通りに面した土蔵造りの店で、真壁では今も商いが続く
見世蔵とは、商家が通りに面した店の部分を土蔵造りにした建物で、店舗と住まいを兼ねています。正面に下屋を張り出して格子を立てた形が一般的です。
外から見てわかる特徴は三つあります。黒漆喰で仕上げた壁、出桁造にして蛇腹を重ねた軒先、そして高く上げた箱棟です。どっしりした外観はこの組み合わせから生まれます。栃木市の文化財台帳に載っている例では、1階が土間と帳場の店、2階が蔵座敷(接客用の座敷を備えた土蔵造り)という構成でした。
江戸期以降に建てられた真壁の見世蔵の中には、いまも店を開けているところがあります。暮らす人がいて店が開いている、生活の続く通りだという点に、真壁ならではの魅力があります。
蔵の壁が火に強いのは漆喰と土壁の構造による
見世蔵や土蔵の白い壁、黒い壁が火に強いのは、漆喰と土壁を組み合わせた構造のおかげです。漆喰のおもな成分は、消石灰(水酸化カルシウム)です。日本では、この消石灰に骨材と麻などのすさ、海藻のりなどの有機物を加えて練り上げます。海藻のりは接着剤の役目を持ち、フノリやツノマタといった海藻を煮て作ります。
塗った漆喰が固まるのは、消石灰が空気中の二酸化炭素と結びつき、炭酸カルシウムになるからです。炭酸カルシウムは水に溶けにくく、そのぶん長持ちします。燃えない素材なので、城郭や寺社、商家、民家、土蔵に昔から使われてきました。弱点もあって、ひび割れや傷が目立ちやすく、手入れを続けなければなりません。
真壁の登録有形文化財は平成11年から17年に100棟余りを登録
桜川市は平成11年度から国の登録有形文化財の制度を活用し、平成11年から17年までの間に100棟余りの建造物を登録しました。
この制度は、1996年(平成8年)10月の文化財保護法改正で生まれ、国の指定制度を補う役割を担っています。登録できるのは建築から50年を過ぎた建造物です。そのうえで、国土の歴史的景観への寄与、造形の規範であること、再現の難しさという三つの条件のうち、どれか一つを満たす必要があります。対象は住宅や工場、社寺、事務所のような建築物にとどまりません。橋、ダム、トンネル、水門といった土木構造物や、煙突、塀などの工作物も登録の対象です。
国宝や重要文化財の指定は、特に優れたものを厳選する仕組みです。これに対して登録は届出制で、規制はゆるやかです。外観を残せば内部を比較的自由に改修できるため、建物を使いながら残す欧米型の制度と位置づけられています。
潮田家住宅は4棟が登録有形文化財
個別の建物では、潮田家住宅があります。この家の登録有形文化財は4棟を数えます。通り沿いに建つ見世蔵は、旅行者にもすぐ見つかる建物として知られています。
震災で空き家になった高久家住宅は市が公有化
東日本大震災では真壁の町並みも被害を受けました。登録有形文化財の高久家住宅は被災して空き家になりましたが、市が公有化し、まちづくり活動の場にするための保存整備を進めています。
真壁へのポタリングは岩瀬から真壁休憩所まで約10km
岩瀬から真壁休憩所までは約10kmで、町並みは自転車でゆっくり回るポタリングに向いています。ポタリングとは、自転車で散歩するようにのんびり走ることです。距離や速さに決まった基準はなく、がんばりすぎない程度が目安になります。英語で「ぶらつく」を表すPotterが語源で、1950年代にはすでに使われていたとする説明があります。
自転車で走ること全般を指す広い言葉がサイクリングで、ポタリングはその中の一つの楽しみ方です。山道を登るヒルクライムや、長い距離を走るロングライドとは楽しみ方が違います。途中でカフェや店に寄りながら進むので、感覚としては街ブラに近いでしょう。見学しながら進む真壁の町並みには、この走り方がよく合います。
自転車は岩瀬駅前の高砂旅館で借りられる
岩瀬駅前の高砂旅館では、2種類のレンタサイクルを借りられます。桜川市観光協会の自転車は電話での予約、広域レンタサイクルはネットでの予約が必要です。
りんりんロードは旧筑波鉄道の線路跡を走る
岩瀬から真壁までは、つくば霞ケ浦りんりんロードのうち旧筑波鉄道コースを走ります。筑波鉄道筑波線は1987年(昭和62年)4月1日に全線が廃止され、残った線路跡を自転車道にしたのがこのコースです。
ゴールの真壁休憩所は、筑波鉄道の真壁駅があった場所です。ホームの跡を休憩所として使っているので、自転車でここに着くことは、昔列車が着いていた駅に自分の脚でたどり着くことでもあります。休憩所を出ればすぐ町並みです。通りには蔵や門が建ち、古くからの和菓子屋や食事のできる店があちこちにあります。
| 区間・施設 | 内容 |
|---|---|
| 岩瀬休憩所(起点) | JR水戸線岩瀬駅の北側。駐車場は30台分で無料 |
| 真壁休憩所 | 筑波鉄道真壁駅の跡。ホーム跡を利用 |
| 旧筑波鉄道コース | 全長40km。旧駅のうち6駅を休憩施設として再利用 |
| りんりんロード全体 | JR岩瀬駅からJR土浦駅まで、霞ヶ浦湖岸一周を含めて全長約180km |
りんりんロード全体は、筑波山地域から霞ヶ浦・水郷地域にかけての自然の中を通ります。
りんりんロードは2019年に第1次ナショナルサイクルルートへ
ナショナルサイクルルートは、国土交通省が「日本を代表し、世界に誇りうるサイクリングルート」を選んで指定する制度です。始まったのは2019年(令和元年)9月9日で、自転車活用推進計画が根拠になっています。
同じ年の11月7日、つくば霞ヶ浦りんりんロードは第三者委員会による審査をへて、国土交通大臣が指定する第1次のナショナルサイクルルートに入りました。同時に指定を受けたのは、ビワイチと、しまなみ海道サイクリングロードです。その後も指定は増え、2025年時点の報道では、認定されたルートは全国で6つになっています。
真壁の町歩きは真壁伝承館で全体像をつかんでから
町並みは自由に見学できます。最初に立ち寄るなら真壁伝承館です。歴史資料館の常設展示を見ておけば、歩き出す前に町の全体の姿が頭に入ります。開いているのは9時から16時30分で、休みは祝日と月曜日(祝日の場合は翌火曜日)とされています。
伝承館が建っているのは、笠間藩の陣屋があった場所です。陣屋とは、江戸時代に郡代や代官、旗本が任地や知行地に置いた役所を指します。城を持たない大名や交代寄合の住まいも陣屋と呼びました。1万石程度の小藩も城を構えず、陣屋が藩庁の役目を果たしていました。
町並み案内所になっている旧真壁郵便局は、昭和2年(1927年)に建てられた国の登録有形文化財です。
老舗菓子店のあんドーナツと蒸し焼きプリン
昭和25年創業の老舗菓子店は、築100年を超える重厚な店構えで営業しています。人気の品はあんドーナツです。菓子づくりに使う木型の展示も見逃せません。
奥久慈卵と筑波山麓の牛乳でつくるプリンの店もあり、こちらは独自の製法で蒸し焼きにして仕上げています。麺類や食堂、スイーツで地元の人に人気の店は、桜川市の観光冊子にまとめて載っています。
真壁は真壁氏の城下町から笠間藩の在郷町へ移り変わった
真壁の町の起こりは、戦国期の真壁城の城下町です。真壁城跡は、平安時代の末に真壁郡へ入った真壁氏が本拠を置いた場所で、現在は国の史跡です。一族の祖とされる長幹(真壁六郎)は、多気直幹の息子と伝わります。
城は平地に築いた平城で、本丸の周りを二の丸、中城、外曲輪が囲んでいました。使われていたのは室町時代から安土桃山時代までです。慶長7年(1602年)に真壁氏が佐竹氏に従って秋田へ移り、城はその時に廃されました。
史跡は歴史上・学術上の価値が高い遺跡
史跡は、名勝や天然記念物とあわせて、文化財保護法で記念物と総称されるものの一つです。城跡や旧宅、古墳、貝塚、都城跡といった遺跡の中から、歴史や学術の面で価値が高いものが史跡になります。国の史跡を決めるのは文部科学大臣で、指定の前に文化審議会の意見を聞きます。指定された場所の現状を変えるには、原則として文化庁長官の許可を得なければなりません。
江戸時代に浅野長政・長重父子が町割りを整えた
江戸時代に入ると、真壁は浅野長政・長重父子の領地になり、町割りが整えられました。町割りとは、城下町や宿場町、寺内町で、街路や家々の並びによって土地を割り振ったものです。城下町の場合、城を中心に武家屋敷、商人や職人の町、寺社の土地を配置し、この割り振りが都市計画の柱でした。
真壁は笠間藩の陣屋を中心にした在郷町として栄えた
町割りが整ったあとの真壁は、笠間藩の陣屋を核に、在郷町として大きくなりました。在郷町とは、農村にありながら、実際には町として機能していた集落のことです。近世の日本では都市と農村が法律上区別されており、農村部で町の役目を果たしていた場所は郷町、町分、町場、在町などと呼ばれていました。
在郷町は、中世から近世にかけて農村で商品の生産が広がるなかで育ちました。真壁でも決まった日に市が立ち、木綿を取引する中継地としてにぎわったといいます。醸造業や鋳造業といった昔からの産業も、今に引き継がれています。
2026年の真壁のひなまつりは2月4日から3月3日、約160軒に雛人形
真壁を代表する行事が「真壁のひなまつり」です。22回目を数えた2026年は、2月4日(水)から3月3日(火)まで真壁市街地を中心に開かれ、入場料はかかりませんでした。重要伝統的建造物群保存地区にある旧家や商家など、160軒ほどが雛人形を飾りました。
運営するのは真壁のひなまつり実行委員会で、問い合わせは桜川市商工観光課が受けています。最寄り駅はJR水戸線の岩瀬駅と、つくばエクスプレスのつくば駅です。開催期間には、つくば駅発の臨時バスが出ることもあります。
真壁祇園祭は約400年続く夏祭りで、2026年は7月23日から4日間
夏の真壁を盛り上げるのは、五所駒瀧神社の例祭にあたる真壁祇園祭です。およそ400年の歴史を持つとされ、山尾地区にある五所駒瀧神社から城下町の真壁地区へ神輿を移し、各町の安全と五穀豊穣を願います。神社そのものは長和3年(1014年)の創建と伝わっています。
2026年は7月23日(木)から26日(日)までの4日間で行われました。夜になると各町から山車が繰り出します。いちばんの見せ場は最終日の神輿還御で、神社へ帰ろうとする神輿の行く手を、各町の山車が阻もうとします。雨が降っても祭りは続きますが、荒天のときは山車の引き廻しを取りやめます。
神輿が城下町へ来て神社へ帰る流れは神幸の形
祭礼で神霊が乗る輿を神輿といい、その神輿が神社を出て巡る行列を渡御と呼びます。御旅所は、渡御の途中で神霊を仮に安置する場所で、たいていは氏子の住む地域の中にあります。本社を出た神霊が御旅所に移り、ふたたび本社へ帰るまでの流れを神幸といいます。真壁祇園祭も、この神幸の形にあたります。
真壁から足を延ばすなら磯部の桜並木と雨引観音
磯部の「桜川のサクラ」は国の天然記念物
町並みから少し先まで走ると、桜川の磯部の桜並木があります。磯部地区は、磯部桜川公園を含む一帯が国の名勝です。また、「桜川のサクラ」は国の天然記念物に指定されています。名勝として扱われる区域には、稲村神社の参道の両側に続く約1kmの区間なども含まれます。
この桜は傷みが出ています。昭和40年代に公園が造られたあとにサクラが弱りはじめ、ここ10年で枯れた木は150本を超えました。これを受けて桜川市は、ヤマザクラを守りながら生かすための保全活用計画に取り組んでいます。
雨引観音は587年に開かれたと伝わる寺
真壁から足を延ばせる寺院が、雨引山楽法寺(雨引観音)です。寺伝では587年の開山とされ、今も修行の道場として使われています。多宝塔が建つ境内は、あじさいの時期と桜の時期に参拝の人でにぎわいます。境内の拝観は自由とされています。
所在地は桜川市本木1です。JR岩瀬駅から桜川市バス「ヤマザクラGO」に乗れば約20分で、雨引観音のバス停で降りるとすぐ着きます。
秋葉原からは電車とバスで約1時間20分
公共交通で真壁へ行く場合は、つくばエクスプレスを使うルートがあります。秋葉原駅からつくば駅までが約45分で、つくば駅でバスに乗り換えて町の中心まで行きます。全体の所要時間は約1時間20分です。
まとめ:真壁は見世蔵の店に寄りながら自転車で回れる町
茨城県桜川市の真壁は、真壁城の城下町として始まり、江戸時代に整えられた町割りが今も残る町です。300余棟の歴史的建造物のうち100棟余りが登録有形文化財で、見世蔵では今も商いが続いています。岩瀬から約10kmのりんりんロードを走れば、真壁駅のホーム跡にある真壁休憩所に着き、そこから先がもう町並みです。








