沼津市の内浦は、駿河湾の奥にある内浦湾に沿った地区で、海沿いの県道17号沼津土肥線を自転車でゆっくり走りながら、湾の向こうに富士山を眺められます。この県道は沼津市が自転車ネットワーク路線に選んだ道で、国がナショナルサイクルルートに指定した太平洋岸自転車道の一部でもあります。車道には、自転車の走る位置を示す青い矢羽根の表示が引かれています。
沼津までは東京から電車で1時間ほどです。気候は穏やかで、湾のふちには三津、長浜、重須、江浦、多比といった集落が並びます。富士山を背にした淡島、水族館の伊豆・三津シーパラダイス、国の史跡の長浜城跡、そして西の先にある大瀬崎と、寄り道先もいくつもあります。
ポタリングは、見慣れない街の景色や初めての店との出会いを楽しみつつ、気ままに走る自転車散歩のことです。運動不足を補ったり気分を変えたりするのが目的で、のんびり走るのが持ち味です。

内浦の海沿いをポタリングするなら県道17号沼津土肥線が軸になる
内浦で自転車に乗るなら、湾に沿って延びる県道17号沼津土肥線を基本のルートにします。自転車専用の道ではなく、自転車と車が同じ車道を分け合って走る形の道です。
太平洋岸自転車道は千葉県銚子市から和歌山市まで約1,487キロメートル
太平洋岸自転車道は、千葉県銚子市を出発点に神奈川県、静岡県、愛知県、三重県を通り、和歌山県和歌山市まで続く自転車道です。全長は約1,487キロメートルあり、令和3年5月にナショナルサイクルルートとして指定されました。
静岡県を通る部分は、2019年度の時点で約470キロメートルありました。そのうち自転車歩行者道路として整っていたのは約110キロメートルで、残りの約360キロメートルは矢羽根の表示で走る位置を示す区間です。
ナショナルサイクルルートは国土交通省が2019年9月9日に始めた制度
ナショナルサイクルルートとは、自転車で走ることを通して各地の観光資源をつなぎ、新しい観光の価値を生み出して地域の創生に役立てるための国の制度です。国土交通省が2019年9月9日に創設しました。
指定までには段階があります。まず指定要件を満たしたルートを第三者委員会が審査し、そのうえで自転車活用推進本部が指定を決めます。この本部のトップは国土交通大臣です。審査で見るのは、ルート設定、走行環境、受入環境、情報発信、取組体制の5つの観点です。
指定を受けたルートは、国と日本政府観光局が宣伝を手がけ、社会資本整備総合交付金をはじめとする支援も優先して受けられます。その一方で、3年から5年ごとにフォローアップがあり、要件を満たせなくなったルートは指定を外されます。
矢羽根型路面表示は走る位置の目安で、罰則はありません
矢羽根型路面表示は、車道のどこを自転車が走るかを示す青い路面表示で、自転車ナビラインという呼び名もあります。静岡県は、この表示に二つの役目があると説明しています。ひとつは自転車の通行位置を示すこと、もうひとつは車道を自転車も走っていることをドライバーに知らせることです。
法定外の表示なので、禁止や規制の意味は持たず、従わなくても罰せられません。自転車が走るのはあくまで車道の左側の端が原則で、矢羽根の上を必ず通らなければならないわけではありません。反対に、車が矢羽根の上を走っても禁止にはあたりません。
国土交通省と警察庁がまとめた「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」には、路面表示の例として矢羽根型が載っています。
内浦湾から見る富士山と駿河湾の高低差は6,000メートル超
内浦湾の外に広がる駿河湾は、日本でいちばん深い湾です。その向こうに日本一高い富士山があり、山頂から湾の底までの高低差は6,000メートルを超えます。
ほかの湾と並べると、駿河湾の深さが群を抜いていることがよくわかります。
| 場所 | 高さ・深さ |
|---|---|
| 富士山 | 標高3,776メートル |
| 駿河湾 | 最大水深2,500メートル |
| 相模湾 | 最深部約1,600メートル |
| 富山湾 | 約1,200メートル |
駿河湾は2016年11月に、世界で最も美しい湾クラブへの加盟が認められました。同じときに加わったのは、京都の宮津湾・伊根湾と、ブラジルのオールセインツ湾です。
内浦のポタリングで富士山ビューを楽しむなら淡島と大瀬崎へ
富士山の眺めで知られる立ち寄り先は、淡島と大瀬崎です。このほか、伊豆・三津シーパラダイスや長浜城跡があり、海の上から富士山を眺めるシーカヤックもあります。
淡島は富士山を背にした外周約2.5キロメートルの島
内浦湾の沖に浮かぶ淡島は、外周がおよそ2.5キロメートル、海抜137メートルの円錐形をした小さな島です。富士山を背景にした姿が美しいことで知られ、島全体が自然公園になっています。
島へは専用船で渡ります。天気に恵まれれば、船の上から富士山の絶景が見られます。
上陸したあとは島の中を歩いて回れます。いちばん高いところに淡島神社があり、そこまでは往復でおよそ50分のちょっとしたハイキングです。島には、レジャースポットのあわしまマリンパークもあります。
伊豆・三津シーパラダイスは日本で初めてイルカを飼育した水族館
三津にある伊豆・三津シーパラダイスは、伊豆箱根鉄道が運営する水族館です。日本で初めてイルカを飼った水族館として知られていて、バンドウイルカのショーが人気です。駿河湾に面して建っているため、晴れた日には湾越しに富士山が見えます。
開業は1930年で、そのときの名前は中之島水族館でした。1941年に三津天然水族館へ名前を改め、1977年に今の名称になりました。
営業時間は時期によって変わり、9時から17時ごろ(入場は16時まで)が案内されています。冬は点検のために休館する日があります。
長浜城跡は内浦湾に突き出た高さ約30メートルの台地にある国の史跡
長浜城跡は、内浦湾へ半島のように張り出した高さ約30メートルの台地にあります。東と西と北の三方を海に囲まれた城跡で、1988年に国の史跡に指定されました。2015年度からは史跡公園として公開されています。
戦国時代、関東一円を治めた後北条氏は重須湊を水軍の根拠地にしていて、長浜城はこの湊を守る城だったとされています。天正7年に始まり天正18年に終わった、11年間だけの城でした。
当時、駿河湾の対岸には、今川氏を倒して駿河へ勢力を広げた武田氏がいました。長浜城は海をはさんでこの武田氏と向かい合っていたわけです。天正8年(1580)には北条と武田の水軍が駿河湾で戦い、そのとき長浜城から軍船が出たと伝わります。のちに水軍の主力が小田原へ集められ、長浜城は水軍の基地としての役目を終えました。
城の造りは、土塁をめぐらせた四つの主な曲輪(第一曲輪から第四曲輪)と、小さな曲輪の集まりです。標高がいちばん高い第一曲輪が主郭とされています。
曲輪(くるわ)は、土塁や石垣、堀を使って城の内と外を区切った区域のことで、郭と書くこともあります。中心となる曲輪は本曲輪や主郭と呼ばれ、まわりに切岸や土塁を設けて守りを固めていました。土塁(どるい)は、土を固めて築いた防御用の壁です。敵が入り込むのを防ぐとともに、内側を外から見えにくくして射撃を防ぐ働きがありました。
大瀬崎は駿河湾に約1キロメートル延びる砂嘴で、富士山の眺めの名所
内浦から西へ走った先にある大瀬崎は、富士山の眺めとダイビングの名所です。地形としては駿河湾に約1キロメートル延びる砂嘴で、根元の側から大瀬神社、ビャクシン樹林、神池の順に並んでいます。
砂嘴(さし)とは、岬や半島などの陸地から海へ細長く延びた砂や礫の地形のうち、先が対岸の陸地や島まで届いていないものを指します。伸び続けて向こう岸に届いたものは砂州といい、砂嘴は先端がはっきりしている点でも砂州と区別されます。
神池は大瀬崎の先端にある直径100メートルほどの丸い池です。海からいちばん近いところでは約20メートルしか離れていないのに、池の水に海水は混じっていません。伊豆七不思議のひとつに数えられていて、池には鯉がたくさん泳いでいます。
神池は大瀬神社の神域なので、見るには拝観料がかかります。拝観できるのは日の出から日没までです。大瀬神社は昔から海の守り神とされ、新しく船を造ったときにはここへお参りして海の上での安全を願ったと伝わっています。
池を囲むビャクシン樹林は、日本の最北端にあるビャクシンの群生地です。樹齢1000年を超える巨木も残っていて、国の天然記念物に指定されています。史跡の長浜城跡と、天然記念物の大瀬崎のビャクシン樹林は、どちらも文化財保護法の記念物にあたり、現状を変える行為などには文化庁長官の許可が要ります。
大瀬崎からさらに先まで走りたい人には、静岡県東部地域局が紹介しているコースもあります。大瀬崎(沼津市)から土肥港(伊豆市)までを結ぶ、全長30キロメートルのコースです。
内浦湾のシーカヤックは富士山を眺めながら約2時間
自転車を降りて海に出る遊び方もあります。内浦湾ではシーカヤックの体験ができます。海風を受けて視界の開けた湾の上を、遠くに世界遺産の富士山を眺めながら漕ぎ進む約2時間のツアーで、初心者でも参加できます。
香貫山の展望台からは富士山と駿河湾、南アルプスまで見渡せる
内浦地区の周辺には市民の森のキャンプ場があり、雄大な自然の中から富士山と駿河湾が見えます。市街地に近い香貫山では、展望台に立つと富士山と駿河湾、さらに遠くの南アルプスまで一度に見渡せます。西浦木負の観光みかん園は、富士山と駿河湾を一緒に見渡せる立地のよさで紹介されている場所です。
ポタリング用の自転車は、短い距離ならママチャリやミニベロで十分
街中を短く走るだけならママチャリやミニベロで足りますし、20キロメートル程度の中距離にはクロスバイクが向いているとされています。
サイクリングは、競技や通勤のためではなく、レジャーとして自転車に乗ること全般を指す言葉で、ポタリングはその仲間の言葉です。一方のロードバイクは、自転車の種類を表す名前です。舗装された公道を走ることを前提にしていて、細いタイヤとシャープな形で、スピードを出しやすいように作られています。ポタリングとサイクリングは楽しみ方を、ロードバイクは車種を表していて、比べる物差しが違います。
どのくらいの走りをポタリングと呼ぶかは、人によって基準が違います。グループで出かけるなら、どの程度走るつもりなのかを前もって話し合っておくと安心です。
休憩は三津の内浦地区センターにあるバイシクルピットが無料
内浦を走る途中で一息つくなら、三津の内浦地区センターを使えます。沼津市がバイシクルピットにしている施設です。バイシクルピットとは、休憩できる場所と空気入れ、自転車用の工具をそろえ、自転車で来た人が気軽に寄れるようにしたスポットのことです。
住所は沼津市内浦三津249-3です。使えるのは火曜日から日曜日の9時から21時までで、年末年始は休みになります。料金はかかりません。
県道17号沼津土肥線の注意点は、道幅が狭くすれ違いにくい箇所が多いこと
海沿いの景色はよくても、この道は走りやすい道ばかりではありません。静岡県は、県道17号沼津土肥線について、急な斜面の下を通る区間があり、道幅が狭くて車とすれ違いにくい箇所が多いと説明しています。県は古宇、久料、江梨などで拡幅工事を順に進めています。
行楽シーズンになると、車の交通量も増えます。海や富士山に気を取られず、後ろから来る車の気配に注意して走る必要があります。
内浦のスタンプラリーは期限がなく、自分のペースで集められる
内浦と沼津が舞台になったアニメ作品があり、その作品をきっかけに足を運ぶ人も少なくありません。沼津まちあるきスタンプのように、集める期限が設けられていないスタンプラリーがあるので、何日かに分けて少しずつ回ることもできます。
モデルコースには、淡島、三津浜、三の浦総合案内所、大瀬浜海岸などが入っています。三の浦総合案内所は、訪れた人どうしが交流する場所にもなっています。作品に登場する宿では、安田屋旅館や淡島ホテルの名前が挙がっています。
気をつけたいのはマナーです。学校や私有地に立ち入ったり、住んでいる人を断りなく撮影したりすると、トラブルのもとになります。自転車で巡るときも、節度を守って行動してください。
まとめ
沼津市の内浦は、湾沿いの県道17号沼津土肥線を走りながら、駿河湾越しに富士山を眺められる海沿いの地区です。道は太平洋岸自転車道に含まれ、矢羽根の表示が整っています。三津のバイシクルピットでは無料で休憩できます。寄り道先には淡島や伊豆・三津シーパラダイス、長浜城跡、大瀬崎があり、海の上から富士山を見たいならシーカヤックも選べます。道幅の狭い区間と、行楽シーズンに増える車には注意が必要です。








