今井町の寺内町をポタリングで巡る|橿原で楽しむ町家散策

当ページのリンクには広告が含まれています。

奈良県橿原市にある今井町は、戦国時代に称念寺を核として築かれた寺内町です。1993年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選ばれています。

地区の中には、八棟造の屋根で知られる今西家住宅や、入母屋造の本堂をもつ称念寺など、国の重要文化財に指定された建物が点在しています。いまも酒屋を営む商家や、無料で見学できる金物商の家もあり、入館料は無料から500円までの幅に収まります。

目次

今井町は称念寺を中心に戦国時代に築かれた寺内町

今井町の始まりは、天文年間(1532年から1555年)です。一向宗(浄土真宗)本願寺の僧だった今井兵部卿豊寿がこの地に寺内町を開いたことが起点とされ、御坊として開かれた称念寺が町の真ん中に置かれました。

「今井」という地名そのものはもっと古く、至徳・元中3年(1386)に興福寺一乗院が残した文書で、すでにその名を確かめられます。ただ、いまの町並みにつながる形が整ったのは戦国時代に入ってからです。

門徒たちは計画を立てて町割りを進め、武力を蓄え、周囲に濠を掘って身を守りました。江戸時代初期の町は東西約600メートル、南北約310メートルの広さで、環濠と土居に囲まれた内側に1100軒ほどの家が並んでいたと伝わっています。

寺内町は寺院を核に門徒や商人、職人が暮らした自治の町

寺内町(じないまち)とは、寺院の境内のすぐそばに育った町や集落を指す言葉で、おもに中世の後期から近世のはじめにかけて生まれました。浄土真宗の寺院や道場を核にした自治の町が典型で、信者のほかに商人や職人も住み、堀や土塁で外周を固めた例が多くあります。集落全体を境内として扱うことで年貢を免除される特権があったとされ、浄土真宗に限らず、さまざまな宗派の寺院のもとで各地に形づくられたといわれます。

寺社の信徒が近くに集まってできた門前町とは、町の成り立ちも構造も違うため、寺内町は別のものとして扱われます。今井町は、その寺内町の代表例として名前が挙がる町です。

織田信長に降伏した今井は「万事大阪同前」の自治を認められた

天正3年(1575)、今井は明智光秀を仲立ちにして織田信長へ降伏し、事なきを得ました。降伏を天正2年(1574)とする記述もあります。のちに信長が出した赦免の朱印状によって、今井郷は「万事大阪同前」とする自治の特権を認められたといわれます。

江戸時代に入ると、今井町は大坂や堺と肩を並べる商業都市へと育ち、江戸時代の中ごろまで南大和地方の商いの中心を担いました。町人の自治も根を張り、「今井町に過ぎたるものは、檜皮葺きの称念寺」と言いならわされるほど、その豊かさは広く知られていたそうです。

今井町は寺内町から在郷町へと姿を変えた

在郷町(ざいごうまち)は、江戸時代の農村部(在方)に生まれた商工業の集落で、その多くは元禄・享保のころに全国でできあがっています。

今井町は、中世末期の寺内町を出発点にして、この在郷町へと移り変わりました。旧環濠で囲まれた保存地区を歩くと、寺内町として町ができ、近世の在郷町へ育っていった市街地の姿がいまも目に入ります。

今井町の約17.4ヘクタールは重要伝統的建造物群保存地区に選定

国が今井町を重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選んだのは、1993年12月8日です。選定の種別は寺内町でした。面積は約17.4ヘクタールあり、地区にある約1500棟の建物のうち約500棟が伝統的建造物にあたります。

町並みを守る住民の取り組みが始まったのは戦後で、これが全国各地の町並み保存運動の先駆けになりました。地区の民家は8割近くが江戸時代の様式を保ち、環濠の跡や細い路地とともに、江戸時代の町の姿をよく伝えています。

重伝建は、城下町や宿場町、門前町など歴史ある集落や町並みのうち、とくに価値の高いものを国が選ぶ地区です。もとになる伝統的建造物群保存地区の制度は、文化財保護法が1975年(昭和50年)に改められたときに設けられました。市町村が条例で保存地区を決め、国は市町村から申出を受けた地区のうち価値が高いと判断したものを選定します。2026年9月4日の時点で選定を受けているのは107市町村の130地区で、今井町もその一つに入っています。

ポタリングで走る今井町の路地は街区ごとに食い違う

今井町の町筋は道幅が狭く、ほぼすべての街区で道がずれて交わっています。自転車で進むと角ごとに見える景色が変わり、T字路の突き当たりでは町家の妻面が視線を受け止める場所もあります。

町並みの大半は壁面のすっきりした大壁造の町家

町筋に並ぶ家の大半は大壁造(おおかべづくり)です。大壁造とは、柱や筋交い、梁を仕上げ材の内側に隠してしまう壁のつくり方で、柱を表に見せる真壁造と対になる言葉です。壁の表面はすっきりと平らに仕上がります。

保存地区に残る良質な町家は、近世から近代にわたる意匠が評価されています。

環濠と土居は戦国時代の守りから江戸時代の財産保護へ役目を変えた

町を囲む濠(環濠)と土居は、守りと水利の両方を受け持つ設備でした。戦国時代には軍事施設として働き、江戸時代になると町人の財産を守る施設として使われました。発掘調査では、いま残る環濠(新環濠)が掘られる前に、別の環濠があったこともわかりました。

環濠集落(かんごうしゅうらく)とは、周りを濠で囲った集落のことで、弥生時代にも中世にもみられます。奈良盆地は中世の環濠集落がとりわけ多い土地で、これまで多くの研究の対象になってきました。濠は守りと結びつけて語られることが多いものの、住民が共同作業で集落を整え、暮らす範囲をはっきり区切る役目もあったとする見方があります。

町家散策では今西家住宅をはじめ重要文化財の町家と寺を見学できる

今井町で国の重要文化財に指定されている建物には、今西家住宅、高木家住宅、河合家住宅、旧米谷家住宅、そして称念寺本堂などがあります。

今西家住宅は八棟造の屋根が町並みの象徴になっている

今西家住宅は今井町を代表する町家で、江戸時代に町政を担った家柄の屋敷です。棟がいくつも重なる堂々とした屋根構えは、今井町の景観を象徴する存在になっています。

この屋根の形式を八棟造(やつむねづくり)といいます。棟の多い複雑な屋根、あるいはそうした屋根をもつ大きな民家を指す言葉で、名前に八とあっても棟が八つとは限りません。寺院に近い大きな入母屋屋根を土台に、千鳥破風や煙出し、懸魚を取り付けます。外壁は城郭のように漆喰で塗り込める一方、中は比較的簡素な民家のつくりです。神社の権現造や寺院、城郭から多くの意匠を取り入れたとされ、裕福な農民や職人、町人の家によく使われました。代表例は今西家住宅と奈良の豊田家住宅で、どちらも17世紀半ばの建物とされています。

称念寺は信仰と町政の両方を担った真宗寺院

称念寺は、今井町が寺内町として形づくられる際に中心を担った真宗の寺です。安土桃山時代から江戸時代のはじめごろ、この寺は人びとが祈る場所であり、同時に町をつくり育てるための政治全般を取り仕切る拠点でもありました。

国が本堂を重要文化財に指定したのは2002年5月23日です。屋根は一重の入母屋造で、建てられた時期ははっきりしていませんが、真宗本堂の初期の手法があちこちに見てとれます。

入母屋造(いりもやづくり)とは、屋根の上の部分が切妻、下の部分が寄棟になった形です。屋根面は四方どれも傾いていて、対面する二つの面を切妻の部分が結んでいます。寺院や神社、城郭、民家まで幅広く使われてきた形式で、民家の場合は母屋造とも呼ばれます。

高木家と河合家、旧米谷家は商いの家の暮らしを伝える

高木家住宅は、天保年間(1830年から1844年)に建てられたとされる江戸時代の商家です。屋号を「大東の四条屋」といい、酒造りをはじめとする商いを手がけていました。館内では当時の生活用具や火縄銃も見られます。

河合家住宅は白壁の外観が目を引く造り酒屋で、屋号は「上品寺屋」です。いまも酒屋として店を開けています。

旧米谷家住宅は、「米忠」の屋号で金物商や肥料商を代々営んできた家です。建ってから約250年といわれ、広い土間や煙返しが見どころになっています。

各施設の入館料と見学の条件は次のとおりです。

施設入館料見学時間・条件
今西家住宅500円(10人以上の団体は400円)10時から12時、13時から17時(最終入館16時30分)。月曜休み(祝日の場合は翌日)。前日までの予約が必要
高木家住宅300円予約の要否は来館前に確認
河合家住宅100円(パンフレット付き)見学できるのは1階のみ
旧米谷家住宅無料
今井まちなみ交流センター「華甍」無料9時から16時30分(閉館17時)。年末年始以外は休みなし
今井まちや館無料9時から12時、13時から17時

今西家住宅の開館時間は、出かける前に公式サイトの最新情報で確認してください。

今井町の町家散策は「華甍」を起点に各施設を徒歩2分から5分でつないで回れる

散策の拠点になるのが、今井町2丁目の今井まちなみ交流センター「華甍」です。町並みの情報が集まる施設で、無料の駐車場が35台分あります。

華甍を出たら、高木家住宅、河合家住宅、今井まちや館、称念寺、今西家住宅、旧米谷家住宅とたどる道筋があり、それぞれのあいだは歩いて2分から5分ほどしか離れていません。

今井町へは近鉄八木西口駅から歩いて5分

電車で向かう場合の最寄りは、近鉄橿原線の八木西口駅です。近鉄奈良駅から八木西口駅までは、急行なら24分、普通なら35分ほどかかります。駅を出て華甍までは徒歩5分ほどです。今井町3丁目にある今井まちや館へは、駅から徒歩10分ほどです。橿原神宮から歩く場合は、25分ほどで町に着きます。

町家カフェはうのまち珈琲店とハックベリーが人気

古い町並みはそのままに、評判のカフェやレストランが今井町に増えています。

うのまち珈琲店 奈良は、古民家を改装したブックカフェです。岡山の人気店が奈良に出した店で、天井の高いゆったりした店内に本がずらりと並びます。ランチも食べられ、週末は行列になることがあります。

カフェ ハックベリーの建物は築約150年以上の古民家で、店主自身の手で改装されました。料理にはオムライスなどがあり、2階のソファー席はとくに人気が高く、予約をすすめる声もあります。

春の「今井町並み散歩」は2026年に第29回を開催

今井町では、毎年春に「今井町並み散歩」が開かれています。2026年の第29回は5月9日から5月17日まで行われました。

最終日の5月17日には、今井宗久にゆかりのある茶会(献茶式)が催されました。同じ日には「今井六斎市」というフリーマーケットも立ちました。室町時代から江戸時代の市のにぎわいをよみがえらせた催しです。会場へは、近鉄八木西口駅から歩いて5分、JR畝傍駅からは10分ほどです。

自転車で今井町を巡るなら人通りの多い路地では降りて押す

古い家が集まるあたりは道が細く、車で回るのは難しいという声があります。自転車でのんびり町を巡るポタリングの場合も、道の広さと通行ルールに気を配り、人が多く行き交う路地では自転車を降りて押して歩くようにします。住民の生活を乱さない心配りが欠かせません。

今井町は大坂や堺と並ぶ商業都市として栄えた寺内町

今井町は、戦国時代に称念寺を中心に築かれ、江戸時代には大坂や堺と並ぶ商業都市として栄えた寺内町です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次