冬の師走を迎える12月、多くのサイクリストが愛車を休ませる季節に、熊本県の天草諸島では特別なイベントが開催されます。2025年12月13日(土)と14日(日)の2日間にわたって行われる「天草一周!あまいちグランフォンド2025」は、研ぎ澄まされた冬の空気の中で、雲仙天草国立公園の絶景を自転車で巡る贅沢な体験を提供します。このイベントは、単なる長距離サイクリングではなく、令和8年(2026年)7月20日に迎える雲仙天草国立公園天草地域の指定70周年を記念した特別な祭典の序章として位置づけられています。天草の美しい海岸線や歴史的なキリシタンの足跡を辿りながら、地域の食や温泉を楽しむこのイベントは、競争ではなく共感を大切にするグランフォンドの精神を体現しています。140kmの本格的な挑戦から80kmの楽しめるコースまで、それぞれのレベルに合わせた選択肢が用意されており、一年の締めくくりにふさわしい忘れられない思い出を作ることができます。

師走に天草を走る意味
一般的なサイクリングシーズンは、春の桜とともに幕を開け、秋の紅葉を楽しむライドで終わりを告げるものです。しかし、カレンダーが最後のページを迎える12月の師走にこそ、あえてペダルを踏む価値があるサイクリストたちが天草に集います。この時期の天草は、冷たく澄んだ空気が視界をクリアにし、海の深い青と島々の緑のコントラストが一年で最も美しく映える季節となります。
早朝のスタート地点に立ち込める冷気、日中の穏やかな日差し、そして何より走破した後に待つ格別な達成感と温かな食事が、12月のライドを特別なものにしています。天草・苓北の豊かな自然と美味しい食を楽しみながら、心地よいサイクリングができる環境が整っています。
グランフォンドという文化
グランフォンドとは、イタリア語で「長い距離」を意味する言葉で、タイムや順位を競い合うレースとは一線を画すイベント形式です。その真髄は、天草の雄大な海岸線や美しい島々が織りなす絶景を、参加者それぞれのペースでゆっくりと味わうことにあります。
このイベントでは、サイクリングという共通の体験を通じて参加者同士が交流し、各エイドステーションで地域の文化や食に触れることを大切にしています。天草という歴史と自然に恵まれた土地を舞台に、長距離を走り抜く喜びを分かち合うことこそが、グランフォンドの本質なのです。
雲仙天草国立公園70周年を祝う
2025年のあまいちグランフォンドは、単発のサイクリングイベントではありません。令和8年(2026年)7月20日に、天草が誇る雲仙天草国立公園の天草地域が指定70周年という記念すべき節目を迎えます。この歴史的な瞬間を祝う祭典の幕開けとして、今回のイベントが企画されました。
天草市、上天草市、そして苓北町という天草地域の自治体が一体となり、全国のサイクリストを温かく迎え入れる準備を整えています。参加者は、国立公園という日本を代表する自然環境の中を走ることが許された、祝福されたサイクリストとして特別な体験を味わうことができます。
2日間で巡る天草の魅力
天草一周!あまいちグランフォンド2025は、2025年12月13日(土)と14日(日)の2日間にわたって開催されます。この大会の最大の特徴は、天草一周を1日で完結させるのではなく、2日間をかけて天草諸島の主要な二つの島である下島と上島をそれぞれ丁寧に巡るという壮大なコンセプトです。
初日の12月13日(土)は、天草諸島で最も大きく、歴史の息吹が色濃く残る下島が舞台となります。天草市および苓北町が走行エリアとなり、スタートとゴール地点は下島の北西端に位置する苓北町の富岡港に設定されています。この日は、参加者の経験と目的に合わせて、140kmと80kmの二つの異なるコースが用意されています。
2日目の12月14日(日)は、天草五橋で九州本土と結ばれた風光明媚な上島が舞台です。走行エリアは天草市および上天草市で、スタートとゴール地点は上島の東部に位置する上天草市役所姫戸地域振興センターに移ります。この日は80kmのコースが設定され、定員200名が上島の美しい景色に挑みます。
140km下島モニター調査コースの挑戦
大会初日に設定される140kmコースは、単なる長距離ライドではありません。下島試走コースと名付けられたこのカテゴリーは、翌年以降の本格開催に向けたモニター調査コースとして特別な意味を持っています。
参加資格は天草地域でのサイクリング経験が豊富な方に限定されており、定員もわずか30名という非常に限られた枠となっています。これは、天草の道を熟知したベテランサイクリストに、コースの最終的な評価を委ねるという重要な役割を担った挑戦です。参加費は12,000円で、小学生以上が対象となりますが、小学生は保護者の帯同が必須となります。
12月の天草の朝は早く訪れます。2025年12月13日(土)、140kmコースの受付は早朝6時から開始されます。まだ夜の気配が残る中、参加者は準備を整え、午前6時40分からのコース概要説明、注意事項、そしてセレモニーに参加します。
そして午前7時ちょうど、号砲とともに140kmの壮大な旅がスタートします。12月13日の天草の日の出は午前7時過ぎのため、参加者たちは昇り始めた太陽の光を浴びながら、あるいは薄暗い中で冷たい空気を切り裂いてペダルを踏み出すことになります。
スタート地点である苓北町の富岡港を出発したライダーたちには、10時間という長い制限時間が与えられます。フィニッシュの制限時刻は、同日の午後5時(17時)に設定されています。12月13日の日没は午後5時過ぎのため、制限時間を最大限に使って走るサイクリストは、スタート時と同じく日没後の黄昏の中でゴールゲートをくぐることになります。夜明けから黄昏まで、天草下島を自らの脚で走り抜く、まさにグランフォンドの醍醐味を体現する真に長大でドラマチックなライドです。
世界遺産を巡る歴史の道
140kmの下島コースは、ただ距離が長いだけではありません。天草下島を巡るルートは、必然的に天草の豊かな歴史と文化に触れる旅となります。下島を走る道程では、世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産である天草の﨑津集落や、その象徴である﨑津教会の近くを通過することになります。サイクリストは、歴史の重みを肌で感じながらペダルを漕ぐという、貴重な体験を得ることができます。
80km下島メインコースで楽しむ
140kmの挑戦者たちを見送った後、富岡港の会場は華やかな雰囲気に包まれます。午前8時から、この日のメインイベントである80kmコースの開会式が盛大に執り行われます。
そして午前8時30分、定員170名のサイクリストたちが、苓北町富岡港から一斉にスタートを切ります。140kmコースが挑戦と調査のライドであるならば、この80kmコースは天草下島の魅力を心ゆくまで楽しむためのグランフォンドと言えます。
80kmコースのフィニッシュ制限時刻は午後4時30分(16時30分)で、スタートからゴールまで最大8時間の時間が与えられています。8時間で80kmという設定は、平均時速わずか10kmで走破可能であることを意味します。これは、大会側が参加者に速く走ることではなく、存分に楽しむことを求めている明確なメッセージです。エイドステーションでの休憩や食事、息をのむような絶景ポイントでの写真撮影、仲間との語らいなど、すべてを楽しむ余裕がこのコースには組み込まれています。140kmはまだ早いと感じる方にとって、天草グランフォンドの魅力を体験する完璧な入門コースとなるでしょう。
80km上島コースの本格ヒルクライム
大会最終日の2025年12月14日(日)、舞台は下島から上島へと移ります。この日のスタートとゴール地点は、上天草市役所姫戸地域振興センターです。定員は200名となっています。
スケジュールは前日の80kmコースとほぼ同様に進行します。午前7時から受付が始まり、午前8時に開会式、そして午前8時30分に200名のサイクリストが上島の道へと走り出します。フィニッシュの制限時刻も同じく、8時間後の午後4時30分(16時30分)に設定されています。
この上島80kmコースには、過去に開催された他のイベント情報から、ほぼフラットで走りやすいという印象を持つ方もいるかもしれません。しかし、あまいちグランフォンド2025の実態は大きく異なります。
大会公式データが示すこのコースの真の姿は、サイクリストの挑戦意欲を掻き立てる厳しくも美しい山岳コースです。走行距離こそ約80kmですが、その中に獲得標高1,057mという数字が隠されています。さらに、ルート上には最大勾配9.5%に達する激坂が待ち受けています。
80kmで1,000mを超える登坂は、決してフラットではありません。これは、天草の海岸線から内陸の丘陵地帯までをダイナミックに駆け巡る本格的なヒルクライム・グランフォンドです。絶景を楽しむためには、まずこの厳しい坂を自らの力で乗り越えなければなりません。これこそ、グランフォンドが持つ挑戦と報酬の構造そのものと言えます。
もちろん、大会はこの厳しい登坂を前にすべてのサイクリストを突き放すわけではありません。体力に不安がある方のために、E-bike(電動アシスト自転車)のレンタルも用意されています。最新のテクノロジーの助けを借りて上島の絶景を存分に楽しむことも、現代のグランフォンドにおける賢明な選択肢の一つです。
国立公園を走る特別な体験
あまいちグランフォンドで走るルートの多くは、雲仙天草国立公園の指定地域内、あるいはその周辺に設定されています。これは、ただの公道を走るのとは全く異なる体験です。法によって保護された日本屈指の風光明媚な海岸線の中を、自らの自転車で駆け抜けるという計り知れない特別感があります。
日本の夕日百選の天草西海岸
12月13日の下島コースの舞台となる苓北町は、夕日が美しい町として知られています。天草市も西海岸サンセットコースを整備しており、このエリアが夕景と海岸線の美しさに恵まれていることがわかります。
サイクリストがペダルを漕ぐほどに、目の前には壮大な水平線が広がります。特に圧巻なのが天草西海岸の景勝地です。鬼海ケ浦の展望台から見下ろす荒々しい波と岩礁、そして与謝野鉄幹・晶子夫妻も句を詠んだという十三仏公園の足がすくむような断崖絶壁と、その岬にひっそりと建つ十三仏堂。これらは、自転車を停めてでもその目に焼き付ける価値のある絶景です。
キリシタンの歴史を巡る
天草の道は、美しいだけでなく深い祈りと歴史が刻まれた道でもあります。特に下島コースは、隠れキリシタンの歴史と強く結びついています。
丘の上に白亜の姿でそびえ立つロマネスク様式の大江天主堂、そこから坂を下って静かな漁港にたどり着くと、海のすぐそばに重厚なゴシック様式の﨑津教会が姿を現します。その内部は教会建築としては極めて珍しい畳敷きで、禁教時代に踏絵が行われたまさにその場所に祭壇が置かれています。この二つの対照的な教会を巡る道程は、サイクリストの心に静かな感動を刻み込むでしょう。
サイクリストに優しい環境整備
天草がサイクルツーリズムに最適と謳うのは、単に景色が良いからだけではありません。サイクリストを受け入れるインフラが着実に整備されています。
路面には自転車の走行ルートを示す矢羽根型路面標示が整備され、安全な走行をサポートしています。また、海岸線のルートで避けられないトンネルも、新しいトンネルでは歩道が仕切られていて安全に通行できる環境が整っており、サイクリストが安心して走れる配慮がなされています。
天草グルメで補給する
厳しい坂を上り、冷たい風を切って長距離を走ったサイクリストには、最高の報酬が待っています。それが天草が誇る絶品グルメです。
12月のライドで冷え切った体に、熱々のスープが染み渡ります。天草のソウルフードと言えば、長崎とはまた異なる独自の進化を遂げた天草ちゃんぽんです。苓北町にはぶどうの木や明月といった地域に愛される食堂があり、サイクリストの空腹を満たしてくれます。
中でも特筆すべきは、天草市河浦町にある天草市総合交流施設天然温泉愛夢里(あむり)です。スペイン・ポルトガル風のユニークな外観を持つこの施設のレストランでは、名物のちゃんぽんが提供されており、冬にはアンコウ鍋なども楽しめます。温泉も併設しており、ライド後のリカバリー拠点として理想的な場所です。
四方を海に囲まれた天草では、海の幸を外すことはできません。新鮮な地魚を使った海鮮丼や寿司は、まさにペダルを漕ぐためのエネルギー源です。
天草市の中心部である本渡エリアには、天草地魚料理いけすやまもtoがあり、店内の大きないけすを眺めながら活きの良い海鮮丼や寿司を堪能できます。ミシュランにも認められ全国の寿司通が訪れる奴寿司(やっこずし)、蛇の目寿し、福伸はなれ利久など、贅沢なひと時を過ごせる店も多数あります。
また、13日の下島コースで訪れるであろう﨑津集落の中には、海月(くらげ)という店があります。世界遺産の集落内で、地元の﨑津で水揚げされたばかりの魚介を使った海鮮丼を味わう体験は、このイベントでしか得られない特別なものです。
天草のグルメは魚だけではありません。日本最大級の地鶏であり、一時は絶滅した幻の地鶏と呼ばれる天草大王もまた、サイクリストに活力を与える逸品です。その強烈な弾力と、噛むほどに溢れ出す豊かな旨味は、疲れた筋肉を回復させるのに最適です。
この貴重な天草大王は、いけすやまもtoや、天草市五和町でイルカウォッチングも楽しめる天草海鮮蔵などで味わうことができます。
ライド後は温泉で癒す
グルメで内側から満たされたなら、次はその体を外側から癒す番です。サイクリングと温泉の組み合わせは、疲労回復のゴールデンコンビであり、天草は良質な温泉の宝庫でもあります。
長時間のライドで酷使した筋肉を、温かな湯が優しく包み込みます。天草諸島には、サイクリストの疲れを癒す温泉が各地に点在しています。
13日のスタートとゴール地点である苓北町には、苓北町温泉センター麟泉(りんせん)の湯があります。ここは苓北町歴史資料館にも近く、ライド後に立ち寄りやすい町の中心的な温泉施設です。
また、140kmコースで通過する天草西海岸には、古くからの湯治場である下田温泉があり、壮大な水平線を眺めながら湯に浸かることができます。天草市の中心部には本渡温泉センターもあり、アクセスも良好です。
そして、サイクリストにとっての楽園とも言えるのが、グルメの項でも紹介した天草市総合交流施設天然温泉愛夢里(あむり)です。
ここは、名物のちゃんぽんを味わえるだけでなく、洋風・和風の二つの大浴場、二つの露天風呂、そして四つの家族風呂まで備えた、まさに温泉のワンダーランドです。13日の下島コース(富岡港発着)からはやや距離がありますが、下島を南下するルートの途中にあり、ライド後のご褒美として、あるいは宿泊拠点として、これ以上ない選択肢となるでしょう。
天草へのアクセス方法
天草での完璧なサイクリング体験を実現するためには、周到な準備と移動計画が不可欠です。
遠方から参加する場合、最も効率的なのは空路です。天草には天草空港(AMX)があり、福岡や熊本からアクセスが可能です。空港に到着したら、レンタカーを確保するのが賢明です。トヨタレンタカー天草店は空港から車で10分(要予約で送迎あり)、天草空港レンタカーサービスは空港ターミナルビル内で営業しており、非常に便利です。
九州本土から自動車で向かう場合、例えば福岡市内から13日のスタート地点である苓北町へは、有料道路(ETC利用)を駆使しても総距離約219km、所要時間は約4時間36分(ETC料金約2,990円)と、かなりの長旅になります。熊本港からフェリーで天草の鬼池港へ渡るルートもあり、時間と体力、コストを比較検討する必要があります。
2日間参加者が知るべき重要事項
ここで、2日間連続での参加(下島と上島)を計画しているサイクリストにとって、最も重要な課題があります。それは、2日間のスタートとゴール地点が全く異なる場所にあるという事実です。
1日目(13日)は苓北町の富岡港(下島の北西端)、2日目(14日)は上天草市の姫戸地域振興センター(上島の東部)となっています。
この二つの地点間は、車で移動しても約1時間半から2時間はかかる、完全に異なるエリアです。これは、2日間参加する場合、宿泊地から両方の地点へアクセスできること、そして何より参加者自身が移動手段を確保していることが絶対条件であることを意味します。公共交通機関での自転車輸送は困難を極めるため、レンタカーなどの移動手段の確保は、このイベントを制覇するための前提条件と言えます。
12月のライド装備
忘れてはならないのが、12月のライド装備です。早朝6時の受付や7時のスタートは、気温が一桁台まで冷え込むことを覚悟しなければなりません。一方で、日中は10度台半ばまで気温が上がる可能性もあります。
防風性と保温性に優れたウインドブレーカー、指先を守るグローブ、保温インナーは必須です。そして、140kmコースの参加者は、日の出前スタートと日没後フィニッシュを想定し、強力なフロントライトとリアライトの携行が絶対条件となります。
一年の締めくくりにふさわしい体験
天草でのサイクリングを体験したある参加者は、天草は素晴らしいところで、自然や文化をサイクリングで回ることができる最高の場所だと語っています。この言葉こそ、あまいちグランフォンドの本質を完璧に捉えています。
140kmの挑戦、80km上島の登坂、そして80km下島の祝祭。参加者は、自らの体力と目的に合わせて、天草の多様な顔を選ぶことができます。
これは、単なるサイクリングイベントではありません。雲仙天草国立公園の壮大な自然、﨑津教会に代表される深い歴史と祈り、ちゃんぽんや海鮮丼といった地の恵み、そしてライド後の温泉。天草が持つすべての魅力を、自転車という最高のツールで味わい尽くす、濃密な2日間の旅です。
師走の冷たい風の中でペダルを踏み、一年を締めくくるにふさわしい達成感と忘れられない思い出を手に入れてください。2025年12月、天草がすべてのサイクリストを待っています。









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