山梨県富士吉田市には、昭和の面影をそのまま残す「西裏」というレトロな商店街があります。富士山の裾野に広がるこのエリアは起伏の少ない道が多く、電動アシスト自転車でのんびり流すポタリングに向いた街です。狭い路地に約100店舗がひしめく西裏を歩けば、看板建築や色あせた暖簾など、昭和ノスタルジアと呼ぶにふさわしい風景に次々と出会えます。この記事では、西裏がなぜこれほど昭和の姿を残しているのかという歴史の背景から、ポタリングの具体的なコース、途中で立ち寄りたい商店街やうどん店、レンタサイクルの利用方法まで、実際に街を巡る際に役立つ情報をまとめました。

西裏は富士吉田市の本町通り裏に広がる約100店舗の飲食店街
西裏は、富士急行線の下吉田駅や月江寺駅の周辺にある一帯で、富士吉田市の中心市街地を南北に貫くメインストリート「富士みち(本町通り)」の裏手に位置します。表通りの本町通りを挟んで西側に飲食店が密集する裏路地が広がっていたことから、この呼び名が付きました。
現在の西裏には、居酒屋や焼鳥屋、老舗の割烹料理店、ジャズバー、スナックなど、狭いエリアに約100店舗が軒を連ねています。木造家屋や看板建築がそのまま残る路地を歩くと、ネオン管の看板や昭和の書体で書かれた店名など、時が止まったような風景に出会えます。派手に整備された観光地ではないぶん、路地を一本入るごとに新しい発見があるのが西裏の面白いところです。写真好きや街歩き好きの旅行者が、この独特な空気感を求めて足を運ぶようになったのも、決して不思議ではありません。
ガチャマン景気の時代に西裏は200軒超の店がひしめきました
西裏の風景を理解するうえで欠かせないのが、富士吉田の織物産業の歴史です。富士吉田は江戸時代から高級織物の産地として栄え、「ハタオリマチ」の異名を持つほど機織り産業が地域経済を支えてきました。
特に大きな転機になったのが、戦後の好景気です。この時期、富士吉田の織物業は空前の活況を呈し、「ガチャッと機を織れば1万円儲かる」と言われるほどの好景気になりました。俗に「ガチャマン景気」と呼ばれるこの時代、機織り工場では働き手が足りなくなり、機織りに従事する女性たちは「織姫」と呼ばれて各地から引く手あまたの存在になったといいます。
この好景気に沸いたのが、下吉田地区の繁華街だった西裏です。1950年代には200軒以上の店が軒を連ね、県内外から商人や業者、織物関係者が集まる、関東でも屈指の繁華街として賑わいました。最盛期にはおよそ700人もの芸者衆が活躍していたと伝わっており、その規模の大きさからも、当時の西裏がいかに賑やかな歓楽街だったかがうかがえます。
その後、海外から安価な織物が大量に流入するようになると、状況は一変しました。機屋は大きな打撃を受け、廃業する工場が相次ぎます。追い打ちをかけるようにオイルショックが直撃し、織物産業は急速に衰退していきました。それに伴って西裏の人通りも減り、空き店舗が目立つ時期が長く続きます。こうした歴史の積み重ねがあったからこそ、西裏には昭和の姿がそのまま残るような形になりました。再開発の波にさらされず、時代に取り残されたように佇む街並みこそが、今のレトロな魅力の正体だといえます。
新世界乾杯通りは2016年のリニューアルで今も7軒が営業しています
長らく静かな時代が続いた西裏ですが、2010年頃から新しい動きが生まれています。空き店舗に新しい世代の店主が入り、老舗と新店が共存する形で活気を取り戻しつつあるのです。
その象徴的なスポットが「新世界乾杯通り」です。もともと「新世界通り」と呼ばれていたこの路地は、2016年2月に空き店舗をリノベーションする形でリニューアルオープンした、はしご酒が楽しめる小さな飲食店街です。最盛期には20軒ほどの店がひしめき合っていたそうですが、現在は7軒ほどが営業を続けています。狭い路地に小さな飲み屋が並ぶ密度感は、初めて訪れる人の記憶に強く残る光景になるはずです。
月江寺商店街には昭和の書体の看板を掲げる書店と古本屋が残っています
西裏地区の中でも特に昭和レトロな雰囲気を色濃く残しているのが「月江寺商店街(月江寺大門商店街)」です。臨済宗の寺院である月江寺の門前から延びるこの商店街には、昔懐かしい書店や喫茶店が今も営業を続けています。この一帯は映画やドラマのロケ地に使われるほど、当時の街並みがそのままの姿で残っていることで知られています。最寄りの月江寺駅からは徒歩3分ほどとアクセスも良く、ポタリングの途中に立ち寄るのにちょうどよい距離です。
商店街の中には、遊び心あふれる古本屋「不二御堂」があります。店内にはたくさんの古書とともに店主手書きのポストカードなどが飾られ、訪れる人を楽しませてくれます。近くの「月の江書店」は昔から営業を続ける書店で、昭和を感じさせる書体で書かれた大きな看板が目印です。店内では書籍だけでなく模型のおもちゃなども扱っており、懐かしさに引き寄せられてつい長居してしまう人も多いといいます。商店街を抜けた先には、月江寺の敷地内にある「月江寺池」があり、地元住民の憩いの場としてゆったりとした時間が流れています。ポタリングの途中、自転車を降りてこの池のほとりで一息つくのもよいでしょう。月江寺駅から向かう場合は、中央通りを進むと左手に西裏通りのアーチ看板が見えてくるので、そこが西裏地区の入り口の目印になります。
なお、西裏では毎年春頃に「西裏市場」という食のイベントが開催されています。西裏通りや新世界乾杯通りを会場に、市内外から集まった飲食店やクリエイターの屋台が軒を連ね、街歩きと出会いを楽しむマルシェのような催しです。初開催の年には市内外から3000人を超える来場者が集まったといい、大人も子どもも楽しめるワークショップエリアが設けられるなど、年々内容が充実してきています。ポタリングの計画を立てる際は、こうしたイベントの開催日程にあわせて訪れるのもひとつの楽しみ方です。
昼と夜で表情が変わる西裏、マジックアワーの路地が一番印象的です
昼間の西裏は、多くの飲食店がまだ営業を始めておらずシャッターが下りているため、夜の賑わいとは異なる静けさをまとっています。看板やレトロな建物をじっくり観察しながら写真を撮るなら、人通りの少ない昼間の時間帯がおすすめです。逆に夜は「はしご酒」の街としての顔を見せます。ジャズバーやスナックのネオンが灯る路地を歩けば、昼間とはまったく違う表情の西裏に出会えます。
とりわけ味わい深いのが、夕暮れから夜へと移り変わる「マジックアワー」の時間帯です。あたりが少しずつ暗くなり、看板やネオンの明かりがひとつ、またひとつと灯っていく数十分間は、昼のレトロな街並みとも夜の賑わいとも違う、独特のノスタルジックな空気に包まれます。ポタリングの一日をこの時間帯に合わせて西裏へ戻ってくるようにスケジュールを組めば、一日のうちで最も印象的な西裏の表情に出会えるはずです。
夜の西裏で特に印象的なのが、老舗のジャズバーの存在です。1970年創業という長い歴史を持つ店では、チャージ330円、予算3000円ほどで、古き良き昭和のムードに浸りながら生演奏や名盤に耳を傾けることができます。また「子の神通り」と呼ばれる一角には、豊富なカクテルを揃えた落ち着いた雰囲気のジャズバーもあり、はしご酒の締めくくりに立ち寄る常連客も多いといいます。参加店舗の入り口には共通のマークとおすすめメニューの英語表記が掲示されている店もあり、初めて訪れる人でも入りやすい工夫がされている点はありがたいところです。ポタリングで体を動かしたあと、日が暮れてから改めて西裏に戻り、こうした一軒でゆっくり杯を傾けるという一日の締め方も、この街ならではの楽しみ方だといえます。
本町通り(富士みち)は電線と富士山が重なる撮影スポットです
西裏散策とあわせて訪れたいのが、すぐ隣を通る「富士みち」こと本町通りです。富士北麓の中心市街地を南北に貫くこの通りは、道の先に富士山がまっすぐそびえる構図から「富士みち」と名付けられました。
通りに軒を連ねる商店街の年季の入った看板や提灯、頭上を雑多に交差する電線、その奥に堂々とそびえる富士山。この組み合わせが日本的でありながらどこか異国情緒も感じさせる独特の景観を生み出しており、SNSでも「富士山ビュースポット」として話題になっています。昭和30年代、繊維産業で栄えた時代の街並みがほぼそのままの姿で残っている点も、西裏エリアと共通する魅力です。
本町通りの両脇に「東裏」「西裏」という飲食店街が広がっている構造も、この街を理解するうえで押さえておきたいポイントです。東裏もまた昭和の時代に織物産業で栄えた地区で、今なお当時の建物や店構えが数多く残っています。西裏とあわせて東裏も歩いてみると、富士吉田の昭和がより立体的に見えてくるはずです。
本町通りへは富士急行線「月江寺駅」から徒歩約5分、あるいは「富士山駅」からも徒歩で向かうことができます。撮影を楽しむ際は、周辺の店舗や住民の生活の場でもあることを踏まえ、静かに、周囲の安全に配慮しながら行いたいところです。自転車で通り抜ける場合も、写真を撮る観光客が道の真ん中に立ち止まっていることがあるため、速度を落として周囲をよく確認しながら進みましょう。
ポタリングは富士山駅前のレンタサイクルで気軽に始められます
西裏や本町通りは道幅が狭く一方通行も多いため、車よりも徒歩や自転車での散策に向いています。中でも自転車でゆっくり流すポタリングは、徒歩よりも行動範囲を広げつつ、車では入りにくい路地にもふらりと立ち寄れる、この街との相性が抜群のスタイルです。
起点としておすすめなのが、富士急行線「富士山駅」の目の前にある富士吉田市観光案内所です。ここでは電動アシスト自転車のレンタサイクルを利用できます。手ぶらで訪れても気軽に自転車散策を始められるのはうれしいポイントです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 利用時間 | 午前9時から午後4時30分まで |
| 料金 | レンタル無料(1台につき保証料1,000円を預ける) |
| 申し込み | 観光案内所窓口、または電話(0555-22-7000) |
| 電話予約 | 利用希望日の1か月前から受付 |
コースとしては、富士山駅を起点に本町通りを南下し、途中で西裏・月江寺商店街・新世界乾杯通りに立ち寄りながら、月江寺駅周辺までを一周する市街地散策コースが定番です。全体の距離はおよそ10キロほどで、大きな起伏がほとんどないため、サイクリング初心者はもちろん、一人旅でも、家族連れやカップルでも気負わずに楽しめます。
新倉山浅間公園と北口本宮冨士浅間神社をコースに組み込めます
市街地コースに、新倉山浅間公園や北口本宮冨士浅間神社を組み込むのもおすすめです。新倉山浅間公園は、富士急行線の下吉田駅から徒歩10分ほどの新倉山の中腹に広がる公園で、園内にある398段の石段を登りきった先の展望デッキから、五重塔「忠霊塔」と富士山を一枚の写真に収められる絶景スポットとして世界的に知られています。眼下には富士吉田の街並みが一望でき、西裏や本町通りを上から眺めることで、これまで路地を歩いて見てきた景色を俯瞰的に捉え直すことができます。園内には約650本の桜が植えられており、春には「さくらまつり」が開催されます。石段の上り下りがあるため、この区間だけは自転車を押して歩くか、ふもとに自転車を停めて徒歩で往復するのが現実的なプランです。
北口本宮冨士浅間神社は、富士山信仰の中心地のひとつとして古くから崇敬を集めてきた由緒ある神社です。境内には木造としては日本最大級ともいわれる「冨士山大鳥居」がそびえ、拝殿には富士山信仰にまつわる奉納物が数多く飾られています。拝殿の左右には樹齢およそ1000年と伝わる「冨士太郎杉」と「夫婦ヒノキ」のご神木が立ち、荘厳な杉並木の参道とあわせて凛とした空気に満ちています。毎年8月26日・27日には日本三奇祭のひとつに数えられる「吉田の火祭り」が行われ、街中に巨大な松明の炎が焚かれる勇壮な光景が繰り広げられます。富士山駅からは徒歩で30分弱かかる距離ですが、自転車であれば無理のない範囲でアクセスできます。歴史ある神社の荘厳な杉並木を抜けたあと、昭和レトロな商店街の猥雑な雰囲気に飛び込むというコントラストは、富士吉田ならではのポタリング体験になるはずです。
もう少し足を延ばせるなら、河口湖周遊のサイクリングコースも視野に入れてよいでしょう。高原の心地よい風を感じながら湖畔を走るコースは、市街地散策とはまた違ったのびやかな爽快感を味わえます。サイクリングのベストシーズンは春先から秋口にかけてで、冬場は積雪や路面凍結の恐れがあるため注意が必要です。もっと本格的に体を動かしたい人向けには、富士スバルラインを駆け上がって富士山五合目を目指す「Mt.富士ヒルクライム」のコースも用意されています。スタート地点となる富士北麓公園自体が富士山ビュースポットとして知られており、木々の合間から雄大な富士山を望むことができます。ただしこちらは相応の脚力と装備が必要な本格コースなので、あくまで気軽に街を楽しみたいポタリングとは別の楽しみ方として捉えておくとよいでしょう。
吉田のうどんはコシの強い極太麺とすりだねの薬味が特徴です
西裏エリアをポタリングで巡るなら、富士吉田名物「吉田のうどん」を味わうのも欠かせない楽しみのひとつです。吉田のうどんは、強いコシと極太の麺が特徴で、キャベツや馬肉のトッピング、そして赤唐辛子をベースにした薬味「すりだね」を効かせて食べるのが定番のスタイルです。市内には合計40店舗以上のうどん店があり、全店舗を食べ歩いて制覇すると「うどんマイスター」の認定を受けられるというユニークな取り組みもあるほど、地元に深く根付いたソウルフードになっています。
麺許皆伝、うどんcafeありんどう、桜井うどんの違い
数ある名店の中でも、開店前から行列ができるほどの人気を誇る「麺許皆伝」は、強いコシとつるりとした喉ごしが特徴の一杯を提供する店として知られています。また「うどんcafeありんどう」は、富士山や富士急行線の電車を眺めながら食事ができるカフェスタイルの店で、濃厚な魚介出汁のスープが持ち味です。「桜井うどん」は元祖キャベツうどんの店として知られ、昔ながらの素朴なスープとキャベツの組み合わせが根強いファンを持っています。ポタリングの途中でうどん店に立ち寄り、汗をかいた体に染み渡る一杯を味わう。これもまた、西裏の街並みと同じくらい富士吉田らしい体験のひとつだといえるでしょう。
西裏通り沿いのカフェで一息つく
うどんでお腹を満たしたあとは、本町通りや西裏通り沿いに点在するカフェやスイーツ店で一息つくのもポタリングならではの楽しみです。「富士山の見える商店街」として賑わう本町通りにある「FUJI DESSERTS ゆらら」は、富士山にちなんだ見た目のスイーツが楽しめる店として人気を集めています。西裏通りに佇む「kinoca」は、人にも森にも優しい暮らしをコンセプトにした店で、レトロな街並みの中にありながら穏やかで居心地のよい時間を過ごせます。本町通りのテイクアウト可能なカフェスタンド「cafeRITA」や、レトロなコンセッションスタンドを思わせる「キネマ」も、自転車を停めて小腹を満たすのにちょうどよい規模感です。こうした個性的な店を巡りながら、富士山モチーフのお土産を探して歩くのも、ポタリングの行程に彩りを添えてくれます。
半日モデルコースなら昼と夜、二つの西裏を一日で味わえます
初めて西裏エリアを訪れるなら、富士山駅を起点にした半日程度のモデルコースを組んでみるとよいでしょう。まず富士山駅前の観光案内所で電動アシスト自転車を借り、駅前から本町通りを南下します。富士山を正面に見据えながら商店街の看板や提灯を眺め、SNSで話題のビュースポットで写真を撮ったら、そのまま西裏地区へ足を踏み入れます。
昼過ぎであれば、シャッターの下りた飲食店街を静かに歩きながらレトロな看板建築を観察し、月江寺商店街まで足を延ばして不二御堂や月の江書店をのぞき、月江寺池のほとりで一休みします。ここまでで所要時間はおよそ2時間程度が目安です。その後は自転車で新倉山浅間公園のふもとまで移動し、398段の石段を上って忠霊塔と富士山の絶景を楽しみます。体力と時間に余裕があれば、北口本宮冨士浅間神社まで足を延ばし、荘厳な杉並木とご神木にも触れておきたいところです。
昼食には、コースの途中で吉田のうどんの名店に立ち寄るのがおすすめです。行列必至の人気店もあるので、時間帯によっては少し早めか遅めの時間を狙うと待ち時間を短縮できます。夕方には再び富士山駅周辺まで戻って自転車を返却し、日が暮れてから改めて西裏や新世界乾杯通りへ繰り出せば、昼と夜、二つの表情を持つ西裏を一日でまるごと味わい尽くすことができます。都内からであれば日帰りでも十分に成立するボリューム感で、一泊すれば夜のはしご酒までじっくり楽しむ余裕が生まれます。
ポタリングの持ち物と自転車ならではの注意点
富士吉田は標高が高く、平地に比べて朝晩の気温が下がりやすい土地柄です。夏場でも羽織れる上着を一枚持っておくと、日が傾いたあとの肌寒さに困らずに済みます。また紫外線が強い時期は帽子や日焼け止めを準備しておくと安心です。冬場は積雪や路面凍結の恐れがあるため、ポタリングを楽しむシーズンとしては春先から秋口にかけてが適しています。
西裏や本町通り周辺は道幅が狭く、一方通行の路地や、観光客・地元住民・生活車両が入り交じる区間も多くあります。自転車を降りて押し歩きに切り替えるべき場面も少なくないため、スピードを出さず、周囲に気を配りながら走ることを心がけましょう。夜間にはしご酒を楽しむ予定がある場合は、飲酒後の自転車運転は法律で禁止されているため、自転車は日中のうちに返却し、夜の散策は徒歩に切り替えるのが安全で確実な選択です。
レンタサイクルを利用する際は、返却時間や保証料の取り扱いについて事前に富士吉田市観光案内所へ確認しておくとよいでしょう。特に電話予約の場合は利用希望日の1か月前から受け付けているため、桜まつりや西裏市場、吉田の火祭りなど、混雑が予想される時期に訪れる予定がある人は早めの手配を心がけたいところです。
ハタオリマチとして今も息づく富士吉田の織物文化
西裏の賑わいを支えた織物産業は、産業としての最盛期こそ過ぎ去ったものの、途絶えてしまったわけではありません。富士吉田は1000年以上前から機織りの町として栄えてきた土地で、その高い技術を受け継ぐファクトリーブランドが今も数多く活動を続けています。近年はこうした織物文化を「ハタオリマチ」という呼び名で発信し、産業観光としての魅力を打ち出す動きが盛んになっています。
富士山駅に直結する「ハタオリマチ案内所」では、市内の織物工場各社が手がける生地や製品が展示・販売されているほか、産地内のマップも入手できます。訪れた記念に、実際の織物生地を使ったくるみボタン作り体験を楽しむこともでき、ポタリングの合間に立ち寄る観光の起点としても使い勝手がよいところです。
さらに、毎月第3土曜日には「FACTORY SHOP OPEN」と題して、各社の工場やショールームが一般に開放される日が設けられています。工場見学や手作り体験を通じて、実際にものづくりの現場に触れられる貴重な機会です。毎年10月には、全国のファブリック製品が一堂に会する「ハタオリマチフェスティバル」も開催され、ワークショップや展示を通じてこの土地の織物文化を肌で感じることができます。
西裏の路地裏に残る古い建物や看板は、この織物産業が生み出した繁栄の名残そのものです。産業としての姿を変えながらも、今なお現役で機を織り続ける工房が点在しているという事実を知ってから改めて西裏を歩くと、単なるレトロな街並みという以上に、地に足のついた歴史の奥行きを感じ取れるはずです。
アクセスは富士山駅から徒歩圏、車なら河口湖ICから15分ほどです
富士吉田市の中心市街地へは、富士急行線「富士山駅」または「下吉田駅」「月江寺駅」が最寄りになります。新宿駅からは富士急行線直通の特急列車を利用すればおよそ2時間前後で富士山駅に到着します。車の場合は中央自動車道の河口湖インターチェンジ、または東富士五湖道路の富士吉田インターチェンジから、いずれも10分から15分程度で市街地に入ることができます。
西裏や本町通り周辺は道幅が狭く、休日には観光客も増えるため、街歩きやポタリングを楽しむ際は歩行者や地元車両との距離感に十分注意したいところです。レンタサイクルを利用する場合は、返却時間や保証料の扱いなど、事前に富士吉田市観光案内所へ確認しておくと当日スムーズに動けます。土日祝日は貸し出しが集中することもあるため、早めの時間帯に借りておくと一日を有効に使いやすくなります。
西裏のポタリングは電動アシスト自転車があれば体力に自信がなくても楽しめます
富士吉田の西裏は、織物産業の隆盛と衰退という歴史の波を経て、結果的に昭和の街並みがそのまま残ることになった、全国的にも珍しいレトロタウンです。新世界乾杯通りや月江寺商店街に代表される路地裏の風景、富士みちに広がる商店街と富士山が織りなす景観、そして名物の吉田のうどん。これらすべてを、電動アシスト自転車を使ったポタリングでゆったりと巡ることができるのが、このエリア最大の贅沢です。
派手な観光施設があるわけではないからこそ、自分のペースで路地に迷い込み、思いがけない発見を重ねられるのが西裏の魅力です。富士山という日本を代表する景勝地のすぐ近くに、これほど濃密な昭和の記憶を残す街が存在していることは、意外と知られていません。河口湖や富士急ハイランドといった定番の観光スポットを巡る旅の合間に、半日だけでも西裏へ足を延ばしてみれば、これまでとは違う富士吉田の顔に出会えるはずです。電動アシスト自転車という気軽な移動手段があるおかげで、体力に自信がない人でも、坂道の少ない市街地なら無理なく回ることができます。
次の休日は、富士山駅前でレンタサイクルを借りて、昭和にタイムスリップするようなポタリングに出かけてみてはどうでしょうか。昼は看板建築とうどんの香りに包まれ、夕暮れのマジックアワーには路地に明かりが灯り始め、夜は小さな一杯を片手にジャズの調べに耳を傾ける。そんな一日を過ごせば、富士吉田という街が持つ奥行きの深さを、きっと実感できるはずです。









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