杵築城下町の坂道を着物散策、ポタリングも楽しむ一日プラン

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大分県杵築市の城下町は、南北の高台に武家屋敷、その谷間に商人町を配置した「サンドイッチ型城下町」です。大小約20本の坂道が武家屋敷と商人町をつなぎ、着物姿での散策とレンタサイクルによるポタリングの両方が楽しめる町として知られています。全国で第1号として「きものが似合う歴史的町並み」に認定されており、坂道を着物で歩くだけで観光施設の入館料が無料になる特典もあります。この記事では、坂道めぐりの見どころ、着物レンタルの料金、レンタサイクルの利用方法、モデルコースまでをまとめて紹介します。

目次

サンドイッチ型城下町は谷町を武家屋敷が両側から挟む構造

杵築の城下町は、谷あいの商店街「谷町」を、北側の北台武家屋敷と南側の南台武家屋敷が両側から挟むように配置されています。両方の高台から見下ろすと、谷町がサンドイッチの具のように挟まれて見えることから、この呼び名が定着しました。同じ形式の城下町は日本で唯一とされ、杵築ならではの地形構造として知られています。

北台と南台の武家屋敷地区は、2017年11月28日に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。この選定を受けて、白壁の塀や門構え、坂道の石畳といった景観を守るための整備が進められ、現在の落ち着いた町並みが保たれています。城下町全体を歩いていると、江戸時代の区割りがほぼそのまま残っていることに気づかされます。

この構造ができた背景には、高台から谷町の様子を見渡せるようにするという、当時の防衛上の事情があったようです。谷町と武家屋敷地区をつなぐために坂道が数多く整備され、現在の杵築には大小合わせて20本近い坂道が残っています。この坂道こそが、杵築観光でいちばん語られるポイントです。

もともとこの地は木付氏が治め、地名も「木付」と表記されていました。城主の木付鎮直は、島津氏の家臣である新納忠元の軍勢に対して二か月におよぶ籠城戦で持ちこたえたと伝わっています。しかし主君の大友義統が文禄の役での失態を秀吉に咎められて改易されると、当主の木付統直は自刃し、木付氏は滅びました。その後、城郭整備は杉原氏らに引き継がれ、正保2年(1645年)に松平(能見松平家)英親が入封します。以後、松平氏は10代・220年余りにわたって杵築藩3万2000石を治め、明治維新まで続きました。「杵築」という表記は、6代藩主重休に与えられた朱印状に誤って「杵築」と記されてしまい、幕府に指摘できなかったためにそのまま定着したという逸話が残っています。

酢屋の坂と志保屋の坂は谷町を挟んで向かい合う撮影スポット

杵築の坂道の中でとりわけ知られているのが、酢屋の坂と志保屋の坂です。両方とも石畳の坂道で、谷町通りを挟んでちょうど向かい合う位置関係にあります。

酢屋の坂は、北台武家屋敷から谷町へと続く坂道で、坂の下にかつて酢屋という店があったことが名の由来とされています。石畳と両脇の白壁、緑豊かな木々が織りなす景観は杵築随一のロケーションと言われ、これまで映画やテレビドラマのロケ地としても使われてきました。志保屋の坂(塩屋の坂とも表記されます)は、南台武家屋敷から谷町へと続く坂道で、かつて坂の下に塩を扱う商家があったことに由来します。晴れた日にこの2つの坂を見比べると、左右対称に近い構図が楽しめ、双方を同時に写真に収められるスポットとして人気を集めています。多くの観光パンフレットに登場する構図も、この2つの坂を対にして撮ったものです。

勘定場の坂は馬と駕籠の歩幅に合わせた緩やかな造り

もうひとつの代表的な坂が勘定場の坂です。坂の下にかつて杵築藩の勘定場(藩の財政を管理する役所)が置かれていたことが名の由来です。この坂の特徴は、石段の幅が広く、勾配が比較的緩やかに造られている点にあります。当時の武士の移動手段であった馬や、駕籠かきが横向きに歩いて運ぶ駕籠の歩幅に合わせて設計されたためだと伝えられています。実際に歩いてみると、酢屋の坂や志保屋の坂に比べて段差が小さく、着物姿でも無理なく上り下りできる坂です。

このほかにも、志保屋の坂の近くにある北台通りや、武家屋敷が立ち並ぶ南台通りなど、坂と一体になった町並みが広がっています。坂の上から見下ろす谷町の瓦屋根や、遠く八坂川・守江湾を望む景色は、四季を通じて表情を変えます。晴れた日の午前中は白壁と石畳に光が反射して、写真撮影にも向いた時間帯になります。

杵築は全国第1号の「きものが似合う歴史的町並み」

杵築は、全国で最初に「きものが似合う歴史的町並み」に認定された町です。九州の小京都とも呼ばれ、江戸時代の屋敷や土塀が残る武家屋敷群、石畳の坂道といった歴史的景観が良好に保存されていることが認定の背景にあります。

市が打ち出す「きつき和服応援宣言」では、着物や浴衣姿で市内の公共観光文化施設を訪れると入館料が無料になります。対象は杵築城、家老屋敷の大原邸、きつき城下町資料館など、城下町エリアの主要施設です。着物姿での来店で割引や特典を受けられる飲食店・土産物店も城下町エリアに約30店舗あり、レストランでのドリンクサービスや土産物店での割引など、着物姿で歩くだけでさまざまな特典を受けられます。

着物文化を盛り上げるイベントも定期的に開かれています。毎月第3土曜日には「きもの感謝祭in小京都きつき」が開催され、着物姿で参加するとプロカメラマンによる撮影と写真のプレゼントが受けられます。国内外から着物ファンや留学生も参加する人気企画で、この日程に合わせて旅程を組む観光客も少なくないようです。

レンタルきもの和楽庵は1着3,500円、350着以上を常時展示

着物レンタルの拠点として特に利用が多いのが「レンタルきもの和楽庵」です。城下町の中心部、谷町通り沿いにあり、女性用の着物が季節ごとに入れ替わりながら常時350着以上展示されています。女性用だけでなく男性用や子ども用の着物、夏場には浴衣も揃っており、家族連れやカップルでも一緒に着物散策を楽しめます。

料金は1着3,500円、カップルプランは2名で6,500円程度です(時期や情報源によって3,000円台で案内される場合もあります)。料金には着物・帯・長襦袢・足袋・草履のレンタル代に加えて着付け代も含まれており、バッグや髪飾り、傘などの小物は1点100円程度で追加レンタルできます。営業時間は10時から16時まで、着付けの受付は14時までとなっているため、じっくり散策したい場合は午前中の早い時間に訪れるのがおすすめです。定休日は水曜日と年末年始なので、訪問前に公式情報を確認しておくと安心です。

着物姿で坂道を上り下りする体験は、杵築観光の大きな見どころです。石畳の坂に着物の裾が触れる感覚、白壁と青空のコントラストの中を歩く時間は、他の観光地ではなかなか味わえません。酢屋の坂と志保屋の坂は着物姿での記念撮影スポットの定番で、日没前後の柔らかい光の中で写真を撮る観光客も多いようです。

レンタサイクルは1日1,000円、JR杵築駅と観光案内所の2拠点で貸出

ポタリングとは、目的地を特に決めずに自転車で散歩するようにゆったり走ることを指す言葉です。英語の「putter(のんびり過ごす)」から派生した和製英語で、ゴールを目指すサイクリングとは違い、気の向くままに走ること自体を楽しむのが特徴です。城下町の中心部は坂道が多いため徒歩での散策が基本ですが、海沿いや周辺エリアまで足を延ばしたいときは、電動アシスト付きのレンタサイクルを使ったポタリングが便利です。杵築市観光協会は「きつきレンタル自転車」として、電動アシスト付きの街乗り自転車を貸し出しています。坂道の多い城下町でも比較的楽に移動できるよう配慮された車種です。

貸出拠点は杵築市街地の観光案内所と、JR杵築駅の観光案内所の2か所です。JR杵築駅は城下町エリアからやや離れているため、電車で訪れた場合はまず駅前で自転車を借り、城下町まで走ってから散策を始めるという使い方もできます。営業時間はおおむね9時から16時まで、貸出は15時頃までで、利用料金は1日1,000円程度です。

ポタリングでは、城下町の坂道を電動アシスト自転車でゆったり巡るコースのほか、海に向かって走り、守江湾や八坂川河口付近の景色を楽しむコースも人気です。守江湾は干潮時に東西約1.5キロ、南北約2キロにおよぶ広大な干潟が現れる湾で、生きた化石と呼ばれるカブトガニが生息し、渡り鳥の中継地・越冬地としても知られています。八坂川河口付近は日本の重要湿地500にも指定されており、坂道の歴史的な景観とは違う、豊かな自然の風景を眺められます。城下町から海沿いへ向かう道中には、杵築城を高台から見上げるビューポイントがあり、天守閣と海のコントラストを写真に収められます。地元の魚介類を扱う店や、古い商家をリノベーションしたカフェに立ち寄りながら走るのも、ポタリングならではの楽しみ方です。

徒歩での坂道散策と自転車でのポタリングを組み合わせると、行動範囲を広げながら効率よく町を回れます。着物姿での自転車走行は基本的におすすめできないため、着物のときは徒歩、着替えた後や別日にレンタサイクルを利用するのが安全です。

杵築城の天守は昭和45年再建、大原邸は家老屋敷

杵築城は守江湾に突き出た台山の上に築かれた平山城で、天守閣からは城下町と守江湾を一望できます。現在の天守は昭和45年に再建されたもので、内部は資料館として城下町の成り立ちに関する展示が行われています。きつき和服応援宣言の対象施設で、着物姿で訪れると入館料が無料です。

大原邸は杵築藩の家老を務めた大原家の屋敷で、北台武家屋敷の一角にあります。江戸時代後期の武家屋敷建築の様式をよく残し、質素ながら格式のある佇まいが特徴です。屋敷内には手入れの行き届いた日本庭園があり、四季折々の風情を楽しめます。武家屋敷の暮らしぶりや当時の生活道具も見学でき、城下町の歴史を深く知ることができます。

間取りは公と私の空間をはっきり分けているのが特徴です。客間は白壁で縁付きの畳を使い、当主の寝所や家族の部屋は土壁に無地の畳縁という違いがあります。仏間の天井は弓なりに緩やかな曲線を描いた「弓天井」で、屋内で弓の稽古ができるように設計されたと伝わっています。先祖に見守られながら武術の稽古をするという発想は、質素倹約を旨とした武家の暮らしぶりをよく表しています。

きつき城下町資料館は旧武家屋敷地区にあり、江戸時代の城下町を300分の1スケールで再現した模型を展示しています。この模型を見ると、坂道の配置や武家屋敷・商人町の位置関係、サンドイッチ型城下町の構造が視覚的につかめます。散策前に立ち寄ると、その後の町歩きがより理解しやすくなります。

北台武家屋敷通りと南台武家屋敷通りは、谷町を挟んで南北の高台に広がる通りです。白壁の塀と立派な門構えが連なり、静かで格式高い雰囲気があります。北台には大原邸のほか、綾部味噌製造元や磯矢邸など見学できる武家屋敷が点在し、南台には家老屋敷だった一松邸などがあります。杵築市が景観保全に力を入れているエリアで、電線の地中化なども進められ、江戸時代さながらの風景が保たれています。

磯矢邸は勘定場の坂の上に位置し、かつて藩主が休息に使った「楽寿亭」の一部を移築した建物です。玄関・客間・茶室の3部屋から成り、どの部屋からも眺められるように設計された庭園が特徴で、縁側に座ると障子越しの景色が絵のように見えます。綾部味噌は地元で古くから続く味噌の製造元で、1946年創業の和菓子店で提供される味噌まんじゅうにも使われています。こうした個人商店や小さな屋敷まで見て回ると、坂道散策の時間はあっという間に過ぎていきます。

名物グルメはだんご汁ととり天

散策途中の食事には、大分の郷土料理として知られる「だんご汁」がおすすめです。大分県は米づくりに適した土地が少なく、米の代わりに穀物を粉にして食べる文化が根づいたことから生まれた料理で、小麦粉に塩と水を加えてこねた生地を麺状に手延べするのが特徴です。手延べすることで歯ごたえがよくなり、汁も絡みやすくなるといわれています。ゴボウやニンジン、シメジなどの野菜とだんごを、麦味噌といりこ出汁の汁で煮込んだ料理で、城下町の食事処でも定番メニューとして提供されています。大分名物として広く知られる「とり天」も、杵築の食事処で味わえます。大正15年頃、県内初のレストランで、骨付きの唐揚げが食べづらいだろうという気遣いから、骨のないもも肉を天ぷら風にアレンジしたのが始まりとされています。鶏肉に衣をつけて揚げたとり天は、酢橘を絞って食べるのが定番で、坂道散策で歩き疲れた体にうれしいボリュームです。

休憩には、城下町エリアに点在するカフェや甘味処が向いています。北台武家屋敷エリアにある「台の茶屋」は、200年以上の歴史を持つ建物を活用した甘味処で、市に寄贈された建物を活かした空間で抹茶や地元産の素材を使ったスイーツを味わえます。このほか「喫茶紙ふうせん」「茶房一番館」「風の郷Cafe煎」「花実/kasane」「お茶のとまや」といったカフェ・喫茶店が点在し、古民家をリノベーションした落ち着いた雰囲気の中で坂道散策の疲れを癒せます。着物姿での入店を歓迎する店も多く、着物のまま甘味処で休むのも杵築らしい過ごし方です。

アクセスはJR杵築駅からバス約10分、駅から徒歩は避けて自転車も選択肢

杵築市への最寄り駅はJR日豊本線の杵築駅です。杵築駅は城下町の中心部からやや離れているため、駅から城下町までは国東観光バスまたは大分交通のバスで杵築バスターミナル方面へ約10分乗車し、そこから徒歩約12分ほどで城下町の中心部に到着します。バスの本数には限りがあるため、時刻表を事前に確認しておくとスムーズです。駅前観光案内所でレンタサイクルを借りれば、バスを待たずに直接城下町まで走ることもできます。

自動車で訪れる場合は、東九州自動車道の杵築インターチェンジから城下町エリアまで約10分ほどで、観光客向けの駐車場も複数整備されています。大分空港からも近く、空港からタクシーやレンタカーを利用すれば30分程度で城下町に到着するため、飛行機での旅行者にも訪れやすい立地です。

一日モデルコースは着物で坂道、返却後に自転車で海沿い

杵築を一日かけて楽しむ場合のモデルコースを紹介します。まず午前中、レンタルきもの和楽庵で着物に着替え、身支度を整えます。着替えを終えたら、きつき城下町資料館に立ち寄り、300分の1模型で城下町全体の構造を頭に入れておくと、その後の散策が理解しやすくなります。続いて北台武家屋敷通りを歩き、大原邸を見学しながら武家屋敷の暮らしぶりに触れます。

昼前後には酢屋の坂を下り、谷町の商店街でだんご汁や地元食材を使ったランチを楽しみます。谷町通りを挟んで反対側の志保屋の坂を上れば南台武家屋敷通りへとつながり、こちらでも武家屋敷の町並みを堪能できます。午後は勘定場の坂など別の坂道を巡りながら、台の茶屋をはじめとする甘味処で休みましょう。夕方には杵築城を訪れ、天守閣から城下町と守江湾の景色を一望します。

着物を返却したあとに時間があれば、レンタサイクルを借りて海沿いまで足を延ばし、守江湾沿いの景色を楽しみながらポタリングを満喫するのもおすすめです。徒歩での坂道めぐりと自転車での海沿い散策を組み合わせると、歴史的な町並みと自然の景色の両方を一日で味わえます。

季節ごとの表情、春は桜、秋は紅葉と庭園

杵築市は瀬戸内式特有の温暖な気候で、年間平均気温は15度程度、積雪も年に1、2回程度とほとんどありません。雨や雪に予定を左右されにくいため、着物散策やポタリングの計画も立てやすい土地です。杵築の城下町は四季を通じて異なる魅力を見せます。春は桜が武家屋敷通りを彩り、白壁と桜のコントラストが美しい景観をつくります。夏は着物ではなく涼しい浴衣での散策が人気で、夕方から夜にかけて涼しくなった時間帯に坂道を歩くのが心地よい季節です。秋は紅葉が城下町の緑を彩り、大原邸の庭園では紅葉と伝統建築が織りなす風情を楽しめます。冬は空気が澄み、坂道から見下ろす守江湾の眺めが一段と美しくなります。積雪はまれですが、雪化粧した城下町の坂道は普段とは違う雰囲気になるようです。

杵築の城下町は、サンドイッチ型という珍しい地形に大小約20本の坂道が刻まれ、着物散策とレンタサイクルの両方で楽しめる町です。酢屋の坂・志保屋の坂・勘定場の坂を着物姿で歩く体験と、電動アシスト自転車で守江湾沿いまで足を延ばすポタリングを組み合わせれば、徒歩だけでは回りきれない範囲まで一日で巡れます。坂道と着物、そして自転車という組み合わせで、大分県杵築市の城下町観光を計画してみてください。

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