山口市の湯田温泉から瑠璃光寺五重塔までは、シェアサイクルを使うと自転車で15分ほどの距離です。山口市では市内各所にシェアサイクルのポートが整備されており、電動アシスト付き自転車を借りて温泉街から国宝の五重塔まで気軽にポタリングを楽しめます。この記事では、シェアサイクルの料金や借り方、湯田温泉を起点に瑠璃光寺五重塔や周辺の公園をめぐるコースの組み立て方を、山口市が公開している情報をもとにまとめます。宿泊とあわせて半日から一日で山口市の中心部をひととおり回れるのが、このエリアの自転車旅の強みです。

湯田温泉のシェアサイクルは二次元コードを読むだけで借りられる
山口市は、まちなかの回遊性を高める取り組みとして、シェアサイクル事業のecobike(旧Interstreet)を実証的に展開しています。2024年4月15日からは従来の自転車に加えて電動アシスト付き自転車が導入され、坂道の多い区間や長距離の移動でも体力の消耗を抑えながら市内を巡れるようになりました。
借り方は難しくありません。スマートフォンに専用アプリのecobikeをダウンロードして会員登録を済ませたら、ポートに停まっている自転車の二次元コードをアプリで読み込みます。それだけで解錠され、そのまま走り出せます。返却するときは、好きなポートで鍵を締めてアプリ上で返却をタップするだけです。支払いはクレジットカードやキャリア決済に対応しており、利用料金は後日まとめて精算されます。会員登録のメールがなかなか届かないときは、スマートフォンのメールフィルターに振り分けられていることがあるので、迷惑メールフォルダものぞいてみてください。
料金は、8時間未満の利用で1500円です。8時間を超えると、以降は10分経過するごとに50円が加算されていきます。短時間の移動を何度も繰り返すというより、まとまった時間をかけてまちなかを一周する使い方に向いた料金設計です。期間限定のイベントや一部のポートでは15分ごとに30円という別料金が案内されることもあるようなので、利用の直前にアプリ内の表示か公式サイトで確認しておくと安心です。
ポートの配置場所を表にまとめました。
| ポート名 | 特徴 |
|---|---|
| 湯田温泉駅駐輪場 | 湯田温泉駅から徒歩1分、24時間利用可能 |
| ホテルニュータナカ | 湯田温泉駅から徒歩8分ほど |
| 山口駅駐輪場 | JR山口駅に隣接 |
| 山口市役所駐輪場 | 市街地中心部 |
| 山口市教育委員会駐輪場 | 市街地中心部 |
| ファミリーマート山口泉都町店 | コンビニ併設で立ち寄りやすい |
| コープやまぐちこことどうもん店 | 買い物ついでに利用しやすい |
なかでも湯田温泉駅駐輪場は、駅から徒歩1分で24時間使えるという立地の良さから、ポタリングの出発点として選びやすいポートです。ホテルニュータナカも湯田温泉駅から徒歩8分程度なので、宿泊先からそのまま自転車で出かけられます。ポートの正確な位置と自転車の在庫は、パンフレットかアプリの地図でその場でも確認できます。
アプリの操作に不安があるなら、湯田温泉街の中心にある湯田温泉観光案内所という選択肢もあります。常時スタッフが常駐しており、従来型のレンタサイクルを取り扱っています。国宝瑠璃光寺五重塔や一の坂川といった市内の主要スポットへのアクセス手段として案内されているので、窓口で相談しながら自転車を借りたいという人には向いています。湯田温泉駅前の旅館案内所でも、宿泊の相談とあわせて自転車移動の情報を集められます。
瑠璃光寺五重塔は日本三名塔の一つで拝観無料
香山公園に建つ国宝の瑠璃光寺五重塔は、奈良の法隆寺、京都の醍醐寺の五重塔と並んで日本三名塔に数えられています。室町中期の建造物のなかでもとりわけ優れたものと評価されており、高さは31.2メートルです。上層にいくほど塔身が細くなっていくシルエットと、檜皮葺屋根の伸びやかな反りが見どころで、写真に収めると各層のバランスの良さがよくわかります。
拝観は無料です。境内一帯は香山公園と呼ばれ、季節ごとに違う景色を見せてくれます。春は梅と桜、初夏は新緑とツツジ、秋は紅葉、冬は雪景色というように、一年を通して塔の表情が変わっていきます。日没から22時まではライトアップも行われているので、宿泊先の湯田温泉から夕方以降にシェアサイクルで訪れて、昼間とは違う姿を眺めるという回り方もできます。
アクセスは、JR山口駅から市コミュニティバスで約15分、中国自動車道小郡インターチェンジから車で約20分です。駐車場は一般車も大型バスも無料で、予約は不要です。バスの時刻に縛られたくないなら、湯田温泉からシェアサイクルで向かうほうが自分のペースを保てます。
完成まで43年かかった大内氏兄弟の塔
この五重塔が建つ場所には、もともと大内氏25代当主の大内義弘が建てた香積寺という寺がありました。義弘は応永6年、西暦1399年の応永の乱で室町幕府三代将軍の足利義満と戦い、敗れて命を落とします。その死を弔うため、弟で26代当主となった大内盛見が五重塔の建立を発願しました。ところが盛見も、永享3年、西暦1431年に九州の少弐氏・大友氏との戦いで戦死してしまい、完成を見届けることはできませんでした。塔が実際に完成したのは、それから10年以上を経た嘉吉2年、西暦1442年頃とされています。義弘の死から数えると、完成までにおよそ43年かかった計算になります。兄弟二代の当主がどちらも戦場で命を落としながら受け継いだ建立の願いが、この塔には込められています。
亀山公園からサビエル記念聖堂へ坂道1本で行ける
香山公園のすぐ北側に隣接する亀山公園は、瑠璃光寺五重塔を見晴らせるビュースポットです。少し高くなった園内から見下ろす塔の姿は、参道から見上げるのとはまた違う趣があります。ポタリングの途中で自転車を止めて、少し歩いてみる価値があるスポットです。
亀山公園から足を延ばすと、山口サビエル記念聖堂にたどり着きます。宣教師フランシスコ・ザビエルの山口来訪から400年を記念して、昭和27年、西暦1952年に建てられたカトリック教会です。平成3年、西暦1991年の火災で一度焼失しましたが、平成10年、西暦1998年に白亜の姿で再建されました。十字架と鐘を含めると高さ53メートルになる2本の塔と、建物全体を覆う三角錐状の屋根が特徴で、山口市のシンボルのひとつになっています。パークロード側から聖堂へ続く階段もありますが、道がわかりにくいので、反対側の坂道を上るルートのほうが迷いにくいです。
もう少し余裕があれば、常栄寺雪舟庭にも寄ってみてください。およそ500年前に戦国大名の大内政弘が別邸として建てたお寺で、庭は室町時代の水墨画家として名高い雪舟に依頼して築かせたと伝わっています。禅の精神を映した日本庭園の代表作の一つとされ、国の史跡及び名勝にも指定されています。自転車を降りて庭を眺めているだけで、時間がゆっくり流れていく感覚になります。
亀山公園からサビエル記念聖堂にかけて延びるパークロードは、緑豊かな並木道に美術館やギャラリーが点在するエリアです。シェアサイクルは道沿いのポートにいったん返却しておき、徒歩でじっくり歩いてから別のポートで借り直すという使い方もできます。自転車と徒歩を切り替えられる自由度の高さは、レンタカーにはない魅力です。
湯田温泉は白狐が発見したと伝わる1200年からの温泉地
湯田温泉の起源として語り継がれているのが、白狐にまつわる伝説です。御堅山のふもとにある寺の小さな池に、傷ついた白狐が毎晩やってきて足を癒していることに僧侶が気づき、その水が温かいことを発見したといいます。さらに掘り進めたところ、温泉が湧き出るとともに金色の薬師如来像が現れたと伝えられています。この伝説にちなみ、湯田温泉では毎年4月に白狐まつりが開かれており、温泉街の各所には白狐の像や記念碑が点在しています。
歴史的な記録としては、湯田温泉の名は正治2年、西暦1200年にまで遡って残されています。長禄3年、西暦1459年には大内氏の統治下で入浴に関する規則が存在していたこともわかっています。中世からおよそ800年続くこの積み重ねが、今の温泉街の落ち着いた空気につながっているのでしょう。
現在、湯田温泉には7つの泉源があります。泉質はアルカリ性の単純温泉で無味無臭、肌になじみやすいやわらかい湯質から美肌の湯とも呼ばれています。神経痛や筋肉痛、関節痛、五十肩、うちみ、くじき、冷え性、疲労回復といった泉質としての案内があり、自転車で汗をかいた後の体を休めるのにも向いています。宿泊しなくても入れる日帰り施設もあり、湯田温泉の中心部にあるこんこんパークは源泉かけ流しの大浴場に露天風呂とサウナを備えています。自家源泉100パーセントかけ流しをうたう湯の宿、味の宿梅乃屋でも日帰り入浴が可能です。ポタリングを終えたあと、汗を流してから帰路につくという一日の締めくくり方ができます。
狐の足あとと中原中也記念館で温泉街を歩く
温泉街の中心には、湯田温泉観光回遊拠点施設の狐の足あとがあります。屋内外に3か所の足湯が設けられており、それぞれ違う雰囲気の空間として作られています。旅の合間にふらりと立ち寄って、靴と靴下だけ脱いで足湯に浸かるという気軽な楽しみ方ができるのは、まちなか温泉ならではです。併設のカフェでは、狐をモチーフにしたスイーツやドリンクも用意されています。
狐の足あとのすぐ前には、詩人の中原中也の記念館があります。中原中也はこの湯田温泉の地に生まれた詩人で、記念館は生家の跡地に建てられています。館内には直筆の遺稿や愛用していた机などの遺品が常設展示されているほか、不定期で特別企画展も開かれています。自転車を降りて足湯と文学館を往復するだけでも、湯田温泉らしい時間の過ごし方になります。
山口きらら博記念公園にも期間限定のシェアサイクルがある
まちなかのポタリングに慣れてきたら、山口きらら博記念公園まで足を延ばすという選択肢もあります。この公園では、期間限定でecobikeや電動モビリティを設置する実証実験が行われており、専用アプリで自転車の二次元コードを読み込んで使う仕組みは市街地のシェアサイクルと同じです。園内の通行ルートに設定された園路を走ることができ、ヘルメットは公園管理事務所で貸し出されています。数に限りがあるので、早めに立ち寄ったほうがよさそうです。広大な敷地を生かした自然共生型の運動公園なので、まちなかの歴史・文化スポット巡りとは違う、開放的な走りを楽しめます。雨天や荒天のときは運行が中止されるため、天候と実施期間は事前に確認してください。
山口市と秋吉台・秋芳洞を結ぶ約30キロメートルのサイクリングロードも整備されています。体力と時間に余裕があるなら、まちなかポタリングの延長として計画してみるのもよいでしょう。山口県のサイクル県やまぐちProjectでは、まちなかCyclingマップという冊子も作成・配布されています。長距離を走ることよりも、グルメや文化・歴史体験、史跡巡りを気軽に楽しみたい人向けにまとめられたマップで、県内のサイクリスト向け支援施設や県のウェブサイトから入手できます。
境内では自転車を降りて歩くのが基本のマナー
シェアサイクルでのポタリングでは、いくつか気をつけたい点があります。瑠璃光寺五重塔や常栄寺雪舟庭のような拝観エリアでは、境内への自転車の乗り入れが制限されていることが多いです。入口付近の駐輪スペースに自転車を止めて、そこから先は歩いて見学するのが基本のマナーになります。
料金面では、8時間未満で1500円という設定を踏まえて、あらかじめ回りたいスポットとおおよその所要時間を決めておくと無駄がありません。電動アシスト自転車とはいえ、まちなかには交通量の多い道路もあります。車道と歩道の区別や信号をしっかり守って、安全運転を心がけてください。ポートの位置と自転車の在庫はアプリでその場でも確認できるので、出発前や予定変更のときにこまめにチェックすると迷いが減ります。
湯田温泉周辺は焼肉から炭火焼きまで選択肢が広い
ポタリングの合間には、湯田温泉周辺のグルメも楽しみのひとつです。和食や居酒屋、イタリアン、フレンチ、焼肉、ステーキ、中華、カレー、カフェ、スイーツまで幅広いジャンルの飲食店が揃っており、その日の気分や体力に応じて選べます。2019年2月には、飲食店が集まる湯けむり横丁という施設が湯田温泉に誕生しました。地鶏の炭火焼ともつ鍋を看板メニューとする居酒屋の弥さかなども出店しており、温泉街らしい賑わいのなかで食事ができます。
セントコア山口の1階にあるレストランは、窓の外に水階段の庭園を望める明るい空間です。自転車での散策で疲れた体を休めながら、ゆったり食事をとるのに向いています。走ったあとの一杯や、足湯めぐりの合間のスイーツなど、グルメを組み合わせることでポタリングの満足度が上がります。
自転車を使った観光振興は全国の自治体に広がっている
山口市のようにシェアサイクルを観光の足として整備する動きは、山口市だけの話ではありません。国土交通省はサイクルツーリズムを推進しており、自転車を活用した観光地域づくりが有望と位置づけて、各交通機関でのサイクリスト向けサービスの充実や、走行環境の整備を全国の自治体に呼びかけています。サイクルツーリズムが広がることで、観光消費の拡大や雇用創出、地域のブランディングにつながるという指摘もあります。
サイクルツーリズムが発展した地域では、ガイドや自転車整備士、宿泊施設のスタッフなど多様な仕事が生まれ、若い世代がUターンやIターンで就職する動機のひとつにもなっているといいます。人口減少に悩む地方にとって、自転車を軸にした観光は経済効果だけでなく雇用の面でも意味を持ちはじめています。
湯田温泉と瑠璃光寺五重塔を結ぶまちなかのシェアサイクルも、こうした全国的な流れのなかで整備が進んできた仕組みのひとつです。観光客にとっては移動の選択肢が増えるだけでなく、地元の飲食店や宿泊施設にとっても、まちなかを回遊する客を呼び込む手段になっています。旅行者が自転車で立ち寄る店が増えれば、それだけ湯田温泉全体の賑わいにもつながっていくはずです。
電動アシスト自転車なら坂道でも体力を残せる
湯田温泉から瑠璃光寺五重塔にかけてのエリアは、季節によって表情が変わります。春は香山公園の梅と桜、亀山公園の新緑が美しく、自転車で風を受けながら花見ができます。初夏から夏はツツジと深い緑が公園を彩り、木陰の多いルートを選べば夏場でも比較的走りやすいです。秋は紅葉に染まる五重塔が格別で、写真愛好家が多く訪れる季節でもあります。冬は雪化粧した塔が見られることもあり、静かな空気のなかでの散策も悪くありません。日没後のライトアップも合わせれば、一日のうちで何度も違う顔を見せてくれるのが、このエリアをポタリングでめぐる面白さです。
電動アシスト付きの自転車は、時速15キロメートルで1時間走ると体重70キログラムの人でおよそ221キロカロリーを消費するという目安があり、運動強度としては普通に歩くのと同じくらいとされています。坂道ではアシストが働いていてもペダルを漕ぐ力は必要になるので、平坦な道だけを走るよりも体を動かした実感を得やすいです。無理なく続けやすいぶん長い距離を走りやすく、結果として一日の移動全体では相応の運動量になることも珍しくありません。電動アシスト付きのシェアサイクルであれば、亀山公園からサビエル記念聖堂に向かう坂道や、湯田温泉から香山公園までの距離も、体力を大きく削られずに走れます。バスの時刻に合わせたり、駐車場を探したりする手間がない分、その場の思いつきでルートを変えられるのも自転車旅らしいところです。宿泊は湯田温泉、移動はシェアサイクル、目的地は瑠璃光寺五重塔と周辺の公園という組み合わせは、山口市の中心部を効率よく回りたい人にとって、選びやすい旅のかたちだと思います。湯田温泉駅に着いたら荷物をホテルに置いて、そのままシェアサイクルで香山公園へ向かうというような組み立て方も無理なくできます。移動そのものに時間を取られない分、五重塔の前でゆっくり写真を撮ったり、亀山公園のベンチで一息ついたりする余裕も生まれます。サイクルツーリズムの広がりが宿泊施設や飲食店に新しい客の流れをもたらしているように、湯田温泉と瑠璃光寺五重塔のあいだを走るシェアサイクルも、まちの回遊のかたちを少しずつ変えつつあります。次に山口市を訪れる機会があれば、まずは湯田温泉駅のポートで電動アシスト自転車を借りるところから旅を始めてみてください。








