石狩市と当別町をまたぐポタリングは、田園風景と日本海の両方を1日で楽しめるルートです。当別町側では見渡す限りの農村地帯とスウェーデン風の街並みを走り、石狩市側まで足を延ばせば石狩湾に面した海岸線に出会えます。札幌都心部から車や電車で40分ほどという距離感でありながら、まったく異なる二つの景観を続けて味わえるのが、このエリアの一番の強みです。地形はおおむね平坦で、ロードバイクの経験が浅い人やクロスバイク、電動アシスト自転車での参加者でも走りやすいコースが多く用意されています。この記事では、アクセス方法から代表的なコース、立ち寄りたいスポット、季節ごとの楽しみ方まで、実際に走る際に役立つ情報をまとめます。
北海道のサイクリングが各地で人気を集めているのは、信号や渋滞が少なく走りに集中しやすいことに加えて、海や湖、丘陵、山岳といったエリアごとの景色の変化が大きいことが理由に挙げられます。道の駅やサイクルステーションが点在し休憩しやすい点も、初めて訪れる人にとっては安心材料です。石狩市と当別町のエリアも、石狩川に沿った平坦なルートを中心に、初心者から経験者まで走りやすい環境が整っています。景色だけでなく、地域の食文化や観光スポットとサイクリングを組み合わせた体験ができる点も、このエリアが選ばれる理由のひとつです。

札幌から40分の距離で田園風景と海岸線の両方を走れる
当別町と石狩市のポタリングが選ばれる理由は、アクセスの近さと地形の平坦さにあります。札幌市中心部から当別町までは車で約40分、JR学園都市線(札沼線)の普通列車でも札幌駅から約40分で到着します。輪行袋を使えば自転車をそのまま列車に持ち込めるため、現地に着いてすぐ組み立てて走り出せます。
石狩川が形成した石狩平野の上に位置するため、当別町から石狩市にかけて極端な坂はほとんどありません。地元では、この地域は平坦だからこそ自転車が走りやすいと紹介されており、ポタリングデビューの舞台としても向いています。
石狩市方面へは、札幌市内から豊平川サイクリングロードを北上し、石狩川と合流する形で石狩浜方面へ向かうルートが定番です。信号が少なく、日帰りポタリングのルートとして使われています。車で訪れる場合は、道の駅や観光拠点に駐車場が整備されているため、車に自転車を積んで現地からスタートするスタイルも一般的です。なかでも道の駅とうべつは札幌都心部から一番近い道の駅として知られ、ポタリングの起点や終点として利用されています。
ポタリングは、気軽さや快適さを重視して自転車で気ままに走る楽しみ方を指します。石狩市と当別町のような平坦な道でスピードを楽しみたい人や運動効果を重視したい人にはクロスバイクが向いており、丘陵地を含む長距離をゆったり走りたい人には電動アシスト自転車が向いています。電動アシスト自転車はペダルをこぐ力をモーターが補助してくれるため、坂道や長距離でも負担を抑えて走れるのが特徴です。当別町のスウェーデンヒルズ周辺のようにゆるやかな起伏がある区間でも、電動アシストなら体力に自信がない人でも走りきりやすくなります。
当別町のスウェーデンヒルズは姉妹都市提携がきっかけで生まれた住宅地
当別町は、田園風景の中に北欧の街並みが同居しているのが特徴です。1974年(昭和49年)、当別町はスウェーデン王国のレクサンド市と姉妹都市提携を結びました。きっかけは、当別町の丘陵地を訪れた元在スウェーデン日本大使館の関係者が、この風景はストックホルム郊外とよく似ていると評したことだったと伝えられています。
この縁から生まれたのが、住宅地「スウェーデンヒルズ」です。小高い丘の上に三角屋根の赤い家々が並び、家と家の間に塀や境界を設けず、芝生でゆるやかにつながる街並みが広がっています。自転車で走り抜けるだけでも、北海道の田舎町とは違う空気を感じられる場所です。
近くには「レクサンド記念公園」もあります。2007年(平成19年)、レクサンド市との姉妹都市提携20周年を記念して整備された展望公園で、レクサンド市から寄贈された木製の馬の置物「ダーラナホース」(地元では「レック」と呼ばれています)が設置されています。公園は当別町の田園風景を見渡せる高台にあり、走行中の休憩スポットとしても使いやすい立地です。
道の駅とうべつとロイズタウンは当別町ポタリングの補給ポイント
道の駅とうべつは、当別町を走るなら外せない拠点です。駅舎はスウェーデンの建築様式をイメージしたデザインで、大きな三角屋根とベンガラ色の外壁が特徴になっています。地場産の農産物や特産品を扱う直売所のほか軽食コーナーもあり、走行中の補給ポイントとして重宝します。
太美(ふとみ)地区は、一面に美しい田園風景が広がるエリアで、ロイズの生産拠点「ロイズタウン工場直売店」があります。2022年3月にリニューアルオープンしたこの直売店は田園地帯に囲まれた立地にあり、チョコレートや焼き菓子、パン、ロイズファームトゥバーチョコレートなどを購入できます。同じ当別町内には、カカオ豆の栽培からチョコレートができるまでの工程を体験・見学できる施設「ロイズカカオ&チョコレートタウン」もオープンしており、ポタリングの合間に立ち寄る人が増えています。
当別町にはこのほか、全国でも最大規模の面積を誇る森林公園「道民の森」があります。ポタリングのコースからも近い一番川地区には、天然林に囲まれた清流沿いにオートキャンプ場と自然体験キャンプ場が整備されています。夏には北欧の伝統行事にならった夏至祭が開催されるほか、とうべつ花火大会や北海道亜麻まつりなど、町内外から人が集まるイベントも季節ごとに開かれています。
当別町公式サイクリングマップはABCD4コースで所要時間別に整備されている
当別町観光協会が制作した公式サイクリングマップには、4つのモデルコースが用意されています。市街地をぐるりと巡るAコース、スウェーデンヒルズと道の駅とうべつをめぐるBコース、当別町を開拓した伊達邦直公ゆかりの史跡を訪ねるCコース、そして食と田園風景を堪能するDコースの4本立てで、それぞれ所要時間と走行距離の目安が示されています。伊達邦直公は仙台藩の家臣で、明治期に当別の開拓に入植した人物です。Cコースを走ると、田園風景の背景にあるこうした開拓の歴史を体感できます。
このほか、田園風景の中を走りながら地場生産品のショップや手打ちうどんの店、手作りパンの店を結ぶ食テーマのコースや、地域の神社を巡りながら田園風景や草の香りを楽しむ神社御朱印サイクリングというショートコースも紹介されています。初級者向けには中小屋コースとふとみコースの2本があり、いずれも走行距離25キロから35キロほどのフラットな行程です。半日程度で走りきれるため、体力に自信がない人にも向いています。
自転車を持参しない場合でも、当別町内にはシェアサイクルサービス「HELLO CYCLING」のステーションが設置されており、手ぶらで訪れてもポタリングを楽しめる環境が整いつつあります。JR学園都市線の石狩太美駅や北海道医療大学駅は、いずれも無人駅ながらサイクリングコースへのアクセス拠点として使われています。なお、学園都市線のうち北海道医療大学駅より先の区間は2020年5月に廃止されているため、輪行で訪れる際は北海道医療大学駅までの利用になります。
はまなすの丘公園は日本海と石狩川が交わる46ヘクタールの砂丘公園
石狩市は当別町の西側に隣接し、石狩川の河口部と日本海に面したエリアです。当別町側の田園風景から一転して、雄大な海岸線と広々とした空が広がります。この対比の大きさこそ、当別町から石狩市へと足を延ばすポタリングの醍醐味と言えます。
石狩市を代表するサイクリングスポットが「はまなすの丘公園」です。日本海と石狩川が交わる場所に位置する約46ヘクタールの公園で、1500メートルにおよぶ砂嘴(さし)状の地形に広がっています。園内には180種類の植物が自生しており、うち16.5ヘクタールは石狩市海浜植物保護区に指定されています。石狩川の河口部という立地は、川と海の両方の環境が入り混じる場所ならではの植生を育んでおり、砂丘の上を走る遊歩道からは石狩湾を見渡す開放的な景色が続きます。
公園名の由来になっているハマナスの花は、例年6月上旬から中旬にかけて見頃を迎えます。それ以外の季節にも、春から秋にかけてイソスミレ、ハマエンドウ、ハマヒルガオ、エゾスカシユリ、コガネギクなど、次々と表情を変える花々が咲きます。園内のヴィジターセンターには休憩スペースと、公園を一望できる展望テラスがあります。名物のハマナスソフトクリームは、ほんのりピンク色でハマナスの香りが漂うオリジナルメニューとして親しまれており、ポタリングの休憩にちょうどいい存在です。日本海に沈む夕日を望む景色も評判で、遊歩道を散策しながら夕日と花畑を同時に楽しめる時間帯を狙って訪れる人もいます。
石狩灯台コースは走行距離30キロ以内のフラットな初級ルート
石狩灯台とはまなすの丘公園を結ぶコースは、走行距離約30キロ以内のフラットな初級コースとして紹介されています。海沿いの開放的な景色を眺めながら気軽に走破できるのが特長です。石狩川下流域には、公園を巡りながら走る「パークめぐりサイクリング」ルートも整備されており、河川敷ならではの見晴らしの良さを生かしたコース設計になっています。
弁天歴史公園と番屋の湯は石狩のニシン漁と鮭漁の歴史を伝える
石狩市には、弁天歴史公園や弁天歴史通りなど、江戸時代からニシン漁と鮭漁で栄えた歴史を伝えるスポットも点在しています。弁天歴史公園は、鮭漁で栄えてきた石狩のシンボルとして、かつての石狩医院跡地に弁天歴史通りと一体で整備された公園です。旧石狩医院の和室を再生した「楽山居」や、かつてこの地にあった運上屋を再現した「運上屋棟」、石狩の礎を築いた先人たちを讃える碑などが残っています。周辺には明治期に建てられたニシン番屋を改修・復元した資料館もあり、水産庁の「未来に残したい漁業漁村の歴史文化財産100選」に選定されています。石狩浜や日本海を眺めながら、往時の漁業のにぎわいをしのべる散策スポットです。
温泉施設も充実しています。石狩市本町地区にある「番屋の湯」は、石狩湾と日本海を望む立地にあり、地下数百メートルから汲み上げる化石海水を使っているのが特徴です。太古の海水は冷めにくく、体の芯から温まると評判で、ポタリングで冷えた体を癒す立ち寄り湯として使われています。周辺には石狩浜(あそび地石狩)や、石狩鍋を提供する飲食店もあります。
当別町側には「ふとみ銘泉 万葉の湯」があります。1957年(昭和32年)の発見以来親しまれてきた温泉で、露天風呂からは石狩平野を一望できます。弱アルカリ性の泉質で、田園風景を走り抜けたあとの締めくくりに立ち寄る人が多い施設です。
石狩鍋は石狩市発祥でサケの恵みを生かした郷土料理
石狩市は、サケ漁とともに発展してきた歴史から、北海道を代表する郷土料理「石狩鍋」の発祥地としても知られています。本場の石狩鍋は、サケの身をぶつ切りにし、中骨などの「あら」も使い、キャベツやタマネギといった野菜、豆腐やつきこんにゃくを味噌仕立てで煮込み、仕上げに山椒を振りかけます。2013年(平成25年)には、北海道遺産「サケの文化」を守り伝える担い手のひとつとして石狩市が認定されました。番屋の湯周辺をはじめ、市内には石狩鍋を提供する飲食店が点在しており、海風に当たった体を本場の石狩鍋で温めながら走行を締めくくれます。
290キロの広域ルートは石狩・当別・新篠津・増毛の4市町村を結ぶ
石狩市、当別町に加えて新篠津村、増毛町の4市町村を自転車で巡る広域サイクリングルートも整備されています。総距離は約290キロで、道の駅しんしのつを起点とする「ぐるっと290モデルコース」として2泊3日で走破するプランも公開されています。このルートを使うと、日本海の海岸線、石狩川流域の田園風景、ニシン漁で栄えた歴史的な町並みを一度に体験できます。
日帰りのポタリングとしては当別町か石狩市の一部を切り取って楽しむのが現実的ですが、連休を使った本格的なツーリングを考えている人には、この広域ルートが選択肢になります。詳細は「石狩北部・増毛サイクルルートマップ」として公開されており、事前にコースを確認しておくと当日の計画が立てやすくなります。
6月上旬のハマナスと夏至祭が初夏のポタリングの見どころ
当別町と石狩市のポタリングは、季節によって表情が変わります。春は雪解けとともに田園地帯が動き出し、当別町では農作業が始まる様子を眺めながら走れます。はまなすの丘公園でも早い時期からイソスミレなどの花が咲き始めます。
初夏、特に6月上旬から中旬にかけては、はまなすの丘公園のハマナスが見頃を迎えます。同じ時期、当別町ではスウェーデンの伝統行事にならった夏至祭が開催され、北欧の文化に触れながらのポタリングを楽しめます。日本で唯一、本場に近い形の夏至祭を体験できる機会とされています。
夏は日照時間が長く日没が遅い北海道の利点を生かして、夕方から日本海に沈む夕日を目指すプランも人気です。とうべつ花火大会など夏の風物詩となるイベントも開催されます。秋は北海道亜麻まつりが開かれるほか、当別町の田園地帯は収穫の時期を迎え、実りの風景の中を走れます。はまなすの丘公園ではすすきが風になびく様子が見どころとなり、夏とは違う静けさに出会えます。冬季は積雪のため一般的な自転車走行は難しくなりますが、道の駅とうべつやロイズの直売店といった観光施設は通年営業しているため、シーズンオフに車で立ち寄って次シーズンのルート下見をするという楽しみ方もできます。北海道全体で見ても、屋外でのサイクリングを楽しめるシーズンは4月から10月頃までが目安とされており、なかでも路面が安定し、気温も走りやすい5月から9月にかけてが石狩市と当別町のポタリングの本番シーズンと言えます。
日本海側の強風と紫外線対策が走行前の注意点
北海道の田園地帯や海岸線を走るポタリングでは、市街地とは異なる準備が必要です。給水と補給の面では、当別町・石狩市ともに道の駅や直売店がコース上に点在していますが、区間によっては店舗がしばらく現れないエリアもあります。水分と軽食は多めに携行しておくと安心です。田園地帯や海岸沿いは自動販売機やコンビニエンスストアの数も市街地ほど多くないため、あらかじめ立ち寄り予定の施設を地図で確認し、補給ポイントを把握してから出発すると計画が立てやすくなります。
日本海側は風が強くなりやすいエリアです。特にはまなすの丘公園周辺は遮るものが少ない海岸沿いの地形のため、天候によっては強い横風を受けることがあります。走行前に風向きと風速を確認し、無理のない計画を立てておきたいところです。
日差しについても油断はできません。北海道は緯度が高く紫外線が弱いイメージを持たれがちですが、夏場の晴天時は日差しが強く、長時間の屋外走行では日焼け対策が必要になります。田園地帯は日陰になる場所が少ないため、帽子やアームカバーなど、こまめに調整できる装備を用意しておくと走行中の負担を減らせます。輪行で訪れる場合は、JR学園都市線の列車本数が都心部の路線に比べて少ない時間帯があるため、事前に時刻表を確認しておくと安心です。輪行袋は前輪と後輪の両方を外すタイプが鉄道各社のルールに適合しており、ゴミ袋やビニールシートなど即席のものは専用の袋として認められません。駅やホームでは線路側の前方ではなく中ほどの安全な場所で待機し、輪行袋はショルダーベルトを肩にかけて脇に抱えるように持つと、周囲の迷惑になりにくくなります。車で訪れる場合は、道の駅とうべつやはまなすの丘公園など、駐車場が整備された拠点を起点にすると、輪行の手間なくスムーズにポタリングを始められます。
石狩市と当別町のポタリングは、札幌都心部から1時間かからない距離で、田園風景と日本海という異なる二つの景観を一度に味わえるコースです。当別町ではスウェーデンとの姉妹都市交流が生んだ街並みとレクサンド記念公園、ロイズやチョコレートタウンといった立ち寄りスポットを楽しみ、石狩市に入ればはまなすの丘公園を中心に、季節の花々と日本海の景色、ハマナスソフトクリームでの休憩を挟めます。地形はおおむねフラットで、初心者や体力に自信がない人でも走りやすいコース設計になっているのも大きな特徴です。中小屋コースやふとみコースのような25キロから35キロ程度の手頃な行程から、290キロにおよぶ広域サイクリングルートまで、体力やスケジュールに合わせてコースを選べる幅の広さも、このエリアならではの魅力と言えるでしょう。








