鯉の泳ぐまちは、長崎県島原市の新町地区にある水路の通称で、澄んだ湧水の中を錦鯉が泳ぐ光景で知られています。この城下町を自転車でのんびり巡るポタリングは、徒歩より広い範囲を無理なく回れる移動手段です。島原市はさらに、雲仙山系の湧水が30箇所以上から湧き出す名水の町でもあります。この記事では、島原城と武家屋敷が残る城下町の見どころ、鯉の泳ぐまちを含む湧水スポットの詳細、レンタサイクルを使ったポタリングのコースと料金、そして長崎・熊本方面からのアクセス情報をまとめてお伝えします。城下町観光と湧水めぐりを一日で両立させたい人に向けた、実用的な資料として使える内容です。

島原湧水群は名水百選の総選挙で観光地部門5位
島原湧水群は、環境省が選定する名水百選に登録されている湧水群です。雲仙山系に降った雨が地中でろ過されながら流れ、市街地の下で30箇所以上から湧き出しており、一日あたりの総湧出量は約22万トンにのぼります。環境省が実施した名水百選選抜総選挙では、島原湧水群が「観光地として素晴らしい名水部門」で第5位に選ばれました。城下町の街並みと湧水が一体になって残っている点が評価された結果と言えます。
湧水の水温はおおよそ11度から18度、硬度は平均で36から96mg/lほどで、カルシウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオンを主成分とする弱アルカリ性の軟水です。毎分150リットルほどが自噴しているスポットもあり、まろやかで甘みを感じる水として親しまれています。多くの湧水地には柄杓が置かれており、借りて水を汲むことができます。ただし名水百選の選定は飲用適性を保証するものではないため、実際に飲む場合は現地の案内表示を確認したうえで利用するのが安全です。
湧水スポットは鯉の泳ぐまち周辺だけでなく、市内に広く分布しています。浜の川湧水は島原駅から徒歩20分ほどの場所にあり、地元の人が今も洗い場として使っている生活密着型の湧水地です。白土湖は市街地の中にある湖で、1792年に発生した眉山の山体崩壊(島原大変)によってできた地形です。この山体崩壊では、眉山を構成する天狗山の斜面の一部が突然崩れ、3億立方メートルを超える土砂が有明海に流れ込みました。土砂の流入で発生した津波は島原と対岸の肥後の両岸を襲い、災害全体では約1万5000人が犠牲になったと伝えられています。当時の人々はこの惨事を「島原大変肥後迷惑」と呼びました。白土湖は、この大きな災害の記憶を静かな湖の姿で今に伝えている場所です。
鯉の泳ぐまちは1978年に住民が錦鯉を放流して誕生
鯉の泳ぐまちは、島原駅から徒歩10分ほどの新町地区にある通称で、生活用水として使われている水路を赤や白、三色、金色の錦鯉が泳ぐ光景から名付けられました。このエリアは地下わずか50センチメートルほどの深さでも水が湧き出すほど地下水位が高く、豊富な湧水に恵まれています。
地域の町内会などの住民組織が、1978年に清流へ錦鯉を放流したのがこの景観の始まりです。子どもたちの水や生き物への感性を育てること、先人が守ってきた湧水を次世代に伝えること、そして観光資源として活用することを目的とした取り組みでした。錦鯉そのものの発祥地は新潟県の小千谷市・長岡市とされ、江戸時代に食用の鯉から観賞用の品種として改良が進みました。明治期に紅白、大正期に大正三色、昭和初期に昭和三色といった代表的な品種が確立され、こうして改良されてきた錦鯉が、島原では生活用水路という日常の風景の中で泳いでいます。現在は約100メートルの水路沿いに、澄んだ水と鯉、古い町家や石畳が並ぶ景観が広がっています。
このエリアには観光交流センター「清流亭」があり、休憩や情報収集の拠点として使えます。すぐ近くには湧水庭園「四明荘」もあります。四明荘は明治後期から大正期にかけて医師の伊藤元三郎が私邸として建てた建物で、庭園は国の名勝、母屋と正門は国の登録有形文化財に指定されています。庭には一日約3,000トンの湧水が流れ込む池があり、鯉が泳ぐ姿を座敷から眺められます。住空間と庭園が一体になった「水屋敷」と呼ばれる屋敷は、鯉の泳ぐまち周辺に他にも点在しています。
島原城は1618年に築城、2025年3月に国史跡指定
島原城は、江戸時代初期に松倉重政が築いた城です。松倉重政は1618年、それまでの居城だった日野江城から森岳の地に城地を移し、7年をかけて城を完成させました。当時の島原藩は4万石ほどの小藩でしたが、城の規模は石高に不釣り合いなほど大きく、堅固な造りでした。松倉重政がこの地で武威を示すために大規模な城をあえて築いたという説があります。この築城で領民に重い夫役が課され、それが1637年に勃発した島原の乱の一因になったとも伝えられています。
島原の乱は、天草四郎(益田四郎時貞)を総大将に数万人のキリシタンや農民が原城跡に立て籠もった、江戸時代最大規模の民衆蜂起です。この一揆で3万人以上が命を落としたとされ、事件後の江戸幕府による禁教・鎖国政策の強化につながりました。原城跡は南島原市にある国指定史跡で、2018年には世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産に選ばれています。
島原城はその後、松平家などが城主を務め、明治維新後に廃城となりましたが、1964年に市民の熱意で天守閣が外観復元されました。復元には当時の金額で1億円の費用が投じられたと伝えられています。現在の天守は5層5階の層塔型で、白い石垣と土塀が周囲を囲みます。石垣には島原半島特有の火山岩が加工されて使われており、この土地の地質を反映した造りになっています。天守閣は資料館として整備され、1階にはキリシタン史料、2階には郷土史料、3階には民俗史料が展示されています。1階では島原の乱の攻防を描いた絵図や当時の砲弾、禁教の立札、潜伏キリシタンが隠し持っていたマリア観音やロザリオなどを見ることができます。城の敷地内には、彫刻家北村西望の作品を展示する北村西望記念館(巽の櫓)、民具資料館(丑寅の櫓)、島原大変に関する展示を行う観光復興記念館もあります。
島原城は2025年3月10日、国の史跡として正式に指定されました。城郭としての歴史的価値が公的に改めて認められた形です。天守閣の最上階からは島原市街や有明海、雲仙岳を一望できます。
島原半島全体は2009年8月22日、日本で初めて認定されたユネスコ世界ジオパークのひとつである島原半島ユネスコ世界ジオパークに指定されています。島原市・雲仙市・南島原市の3市にまたがるこのジオパークは「人と火山の共生」をテーマとし、雲仙岳の噴火が繰り返しもたらした災害とそこからの復興、火山活動が生み出す地形や恵みと人々の関わりを学べる場所です。島原城下町に湧く豊富な湧水も、この雲仙火山系がもたらした恵みのひとつです。
武家屋敷通り(鉄砲町)は400メートルの水路と3邸を無料公開
島原城の北西側には、江戸時代の武家屋敷が残る武家屋敷通りがあり、通称「鉄砲町」と呼ばれています。鉄砲組の下級武士が住んでいた町であったことに加え、屋敷と屋敷の間に塀がなく隣の屋敷の奥まで見通せる構造から、鉄砲の筒の中を覗いているように見えたためとも伝えられています。約400メートルの石畳の通りが続き、中央には水路が通っています。
この水路は1669年に松平家が藩主になった際に整備されたもので、当時は生活用水や飲料水として使われていました。水源は約2キロメートル先の熊野神社付近にあったとされます。現在は下の丁と呼ばれる区間にのみ水路が残っていますが、当時の暮らしの工夫を今に伝える遺構です。
武家屋敷通りでは山本邸・篠塚邸・鳥田邸の3邸が公開されており、無料で内部を見学できます。山本邸は代々砲術師範を務めた家柄で、初代の佐五左衛門は松平家が三河にいた時代からの家臣であり、藩主の移封に伴って島原に移り住みました。以後、幕末までの13代にわたり藩の重職として城主に仕えました。篠塚邸は敷地面積およそ90坪で、武家屋敷として一般的な規模とされます。当時の屋根は藁葺きで、5年ごとに葺き替えが行われていたという記録も残っています。この3邸を見学すると、身分によって異なる屋敷の規模や生活様式、そして水路を中心に営まれていた城下町の暮らしを具体的に知ることができます。
ポタリングは島原駅の「めぐチャリ」1日1,100円が起点
島原の魅力を効率よく味わう方法として、レンタサイクルを使ったポタリングが向いています。徒歩では時間がかかる島原城、鯉の泳ぐまち、武家屋敷通り、湧水スポットを、自転車なら短時間で周遊できます。狭い路地や水路沿いの小道にも入りやすく、湧水の音や水路の景観を身近に感じながら移動できるのが利点です。
島原駅観光案内所では「めぐチャリ」という名称のレンタサイクルを利用できます。利用は9時から16時返却が基本で、最終返却時間は17時までです。料金は1日1,100円で、しまばらめぐりんチケットを提示すると800円になります。返却が16時を超えた場合は30分ごとに220円の追加料金がかかります。坂道が多い場所や長距離移動には、電動アシスト付きのレンタサイクル(E-bike)も利用できます。雲仙岳災害記念館「がまだすドーム」内の島原半島観光ジオパーク協議会では、島原半島一周や雲仙方面へのヒルクライムに対応したロングライド仕様のE-bikeを貸し出しています。E-bikeの料金は当日4時間以内で3,300円、4時間を超えると5,500円が目安です。
| レンタサイクルの種類 | 料金 | 利用時間 |
|---|---|---|
| めぐチャリ(通常自転車) | 1日1,100円(めぐりんチケット提示で800円) | 9時から16時返却、最終17時まで |
| E-bike(電動アシスト) | 4時間以内3,300円、4時間超5,500円 | がまだすドームなどで貸出 |
島原半島全体では、サイクリング推進プロジェクト「イコモン」が展開されており、初心者から上級者まで楽しめる複数のおすすめルートを公式サイトで紹介しています。原城跡など南島原方面を巡る日帰りコース、海沿いを走る中距離コース、島原半島を一周する106キロメートルのロングコースまで、体力や興味に応じて選べます。城下町だけを回りたい場合は、島原駅を起点に島原城、武家屋敷通り、鯉の泳ぐまち、湧水庭園四明荘、浜の川湧水を結ぶ数キロ程度のショートコースが歩き疲れず見どころを網羅できます。
具体的な回り方としては、島原駅でレンタサイクルを借りて島原城へ向かい、天守閣からの眺望と資料館を見学します。そこから武家屋敷通りへ移動し、石畳と水路、3邸の屋敷を見ながら江戸期の暮らしに触れます。続いて新町地区の鯉の泳ぐまちへ移動し、水路を泳ぐ錦鯉と湧水庭園四明荘の庭を鑑賞し、清流亭で一休みします。さらに浜の川湧水まで足を延ばし、地元の人の生活に密着した水場の風景を見た後、市内のかんざらし店で甘味を味わって締めるのが定番の巡り方です。距離は全体で5から10キロメートルほどで、坂道も少ないため、初心者や家族連れでも一日で無理なく周遊できる規模感です。
かんざらしと島原手延そうめんは湧水が育てた名物グルメ
島原観光の楽しみのひとつが、湧水を使った名物スイーツ「かんざらし」です。もち米を冬の寒気にさらして作った白玉粉を島原の湧水でこね、丸めて茹で、冷たい湧水でしっかり冷やした団子に、蜂蜜を中心とした蜜をかけて食べます。蜜には数種類の砂糖がブレンドされ、なめらかな喉越しと懐かしい甘さが特徴です。団子を練る水、茹でる水、冷やす水のすべてに雲仙山系の伏流水を使えることが、このなめらかさを支えています。市内には老舗の甘味処が複数あり、氷を浮かせた一杯を提供する店や、手作り体験ができる工房もあります。近年はお土産用の商品化も進んでおり、地元の素材と湧水の魅力を島原の外へ届ける試みが広がっています。
お土産としては、隣接する南島原市を中心に生産される「島原手延そうめん」も定番です。日本五大素麺の一つに数えられ、手延素麺の全国生産量の約3割を占める主要産地となっています。12の工程と30時間ほどの手間をかけて作られ、茹で伸びしにくいコシと小麦の香りが特徴です。城下町のお土産店や道の駅で購入しやすく、かんざらしと並ぶ島原半島の食の魅力です。
島原温泉は炭酸水素塩泉、ポタリング後の日帰り入浴に向く
自転車で城下町を巡ったあとは、島原温泉で汗を流すのもおすすめです。泉質は炭酸水素塩泉で、無色透明かつ中性のため肌に優しく、切り傷や火傷、慢性皮膚病、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症などへの効果が伝えられています。角質や毛穴の汚れを取り除く働きから「美人の湯」とも呼ばれています。
日帰り入浴を受け入れているホテルや旅館が市内に複数あります。有明海沿いのホテル南風楼は、露天風呂から有明海を一望できるほか、大浴場、サウナ2種類、美泡風呂、陶器風呂、展望テラスを備えています。営業時間は5時から23時までで、日帰り入浴の料金は大人1,000円、小人600円です。湧水の城下町を自転車で巡った一日の締めくくりに、有明海を眺めながら温泉に入るという組み合わせは、島原観光の満足度を高めてくれるでしょう。
アクセスは熊本フェリー60分と島原鉄道が中心
島原市へは、フェリーと鉄道・バスを組み合わせてアクセスします。長崎県島原市と熊本県熊本市を結ぶフェリー航路は約60分で、熊本フェリーや九商フェリーなど複数の事業者が運航しています。熊本フェリーは4月から12月の土日祝日に夜の便を増発しており、旅程に応じて時間帯を選べます。島原半島南端の口之津港と熊本県天草市の鬼池港を結ぶ島鉄フェリーの航路もあり、所要時間は約30分です。熊本方面から島原へ、あるいは天草方面から島原半島南部へ向かう際の選択肢になります。
鉄道では、島原鉄道が市内の移動や周辺地域からのアクセスを支えています。島原港には島原鉄道の島原港駅が約300メートルの距離にあり、島鉄バスの島原港バス停からも徒歩すぐです。新幹線を利用する場合は、九州新幹線の熊本駅を経由し、熊本市内やフェリーターミナルへ移動して島原港へ渡るルートが選択肢の一つです。長崎市方面からは路線バスや自動車でのアクセスも可能で、島原半島の玄関口として複数の交通手段が組み合わされています。
| アクセス手段 | 経路 | 所要時間 |
|---|---|---|
| 熊本フェリー・九商フェリー | 熊本港から島原港 | 約60分 |
| 島鉄フェリー | 天草の鬼池港から口之津港 | 約30分 |
| 新幹線+フェリー | 熊本駅からフェリーターミナル経由で島原港 | 熊本駅からの移動時間による |
レンタサイクルの起点は、島原駅または島原港周辺のレンタサイクル取扱所です。フェリーで熊本方面から訪れる場合は島原港から、鉄道や長崎市方面からバスで訪れる場合は島原駅からのスタートになることが多く、いずれの拠点からも城下町の主要スポットまで自転車で十分にアクセスできます。
島原駅にある島原鉄道総合案内所は6時25分から19時50分まで営業しており、観光情報を集めたりレンタサイクルの手配を相談したりする窓口としても使えます。島原鉄道には「しまてつカフェトレイン」という観光列車も運行されています。諫早駅を出発して島原駅までの沿線を、地元の食材を使ったグルメやかんざらしをはじめとする名物冷菓を楽しみながら移動できる列車で、予約受付は9時から18時です。沿線には有明海のすぐそばに位置する大三東駅のような、海の景色を楽しめる駅も点在しています。有明海は潮の干満差が日本最大級とされる約6メートルに達し、干潮時には広大な干潟が姿を現します。この干潟にはタイラギをはじめとする貝類などが生息しており、有明海の干潟の景観と雲仙火山系の湧水が育む城下町の水景色を、あわせて感じられるのもこの地域の特徴です。
島原城「夜の陣」は2027年3月21日まで開催中
島原城では、2026年5月2日から2027年3月21日までの期間、「島原城 夜の陣」という夜間イベントが開催されています。懐中電灯を手に夜の天守閣周辺を進みながら見学する趣向で、昼間のポタリングとは違う雰囲気で城下町の夜を楽しめます。2026年10月3日には、島原城天守閣前の広場で夕方16時30分開場・17時開始の光の演出イベントが予定されています。日中に自転車で城下町や湧水スポットを巡り、日が落ちてから夜のイベントに合わせて島原城周辺に戻ってくるという一日の組み立ても可能です。
島原半島の秋には、台風シーズンにあたる二百十日の頃を中心に、実りつつある稲を風の被害から守るために氏神へ祈願する「風除祭り」も各地区で行われます。有明町など島原市内の地域に伝わる伝統行事で、城下町観光とは別に、地域に根づいた農村の風習を見る機会にもなります。
島原市は、松倉重政が築いた島原城を中心とした城下町の歴史と、雲仙山系が育む豊富な湧水という自然の恵みが結びついた観光地です。国の史跡に指定された島原城、名水百選に選ばれた湧水群、錦鯉が泳ぐ水路と武家屋敷の街並み、湧水を活かしたかんざらしなど、狭い範囲に見どころが集まっています。坂道が少なく距離も無理のない範囲に収まっているため、レンタサイクルによるポタリングは初心者や家族連れにも向いた回り方です。フェリーや鉄道でのアクセスも複数のルートがあり、熊本方面や長崎市内からも訪れやすい立地にあります。








